内科の医院開業動向
内科は、日本全国で最も標榜数が多い診療科であり、地域医療の基盤として重要な役割を果たしています。患者ニーズの多様化や高齢化社会の進展に伴い、内科医院の役割はますます重要性を増しています。また、診療内容の幅広さと予防医療の拡大により、内科は常に進化し続けています。ここでは、内科における医院開業のトレンドや市場動向について、データを交え解説いたします。
1. 内科の開業トレンド
●診療内容の変遷について
1970年代、全国の内科数は医療機関の中でも最も多く、都市部を中心に分布していました。診療内容は、風邪や高血圧などの一般的な内科疾患が中心で、当時、生活習慣病はあまり認知されておらず、予防医療の重要性も低かったと言われております。
1980年代、国民生活水準の向上と食生活の変化により、生活習慣病の患者数が増加し、それに伴って内科の患者数も増加し始めました。また、生活習慣病の予防と治療に関する研究が進み、予防医療の重要性が認知されてきました。1983年の国民健康保険法改正により、特定疾患診療制度が導入されました。
1990年代以降、徐々に高齢化社会の進展を背景にして高齢者の患者数が増加し、慢性疾患の診療も増加し、メタボリックシンドロームの概念が普及しました。
2000年代に入ると、インターネットの普及により、患者は内科に関する情報を得やすくなり、疾患に対する意識も向上し、健康への意識は現在も多くの人々の関心事となっております。
近年では診断技術や治療法の発展が目覚ましく、がんや難病の治療成績も向上しました。
2020年代に入り、新型コロナウイルス感染症の流行により、オンライン診療が普及し、医療DXの推進を背景にマイナンバーカードや電子カルテの普及がより一層進むなどして患者の医療アクセスの効率化が進んでおります。
1970年代以降、日本における内科の開業動向は、患者数の増減や医療技術の発展、医療制度の変化などに影響を受けながら、変遷を続けてきました。今後も、高齢化社会の進展や医療ニーズの変化など、様々な要因によって、内科の開業動向は変化していくと考えられます。
●内科の特徴
内科は、消化器系(食道、胃、腸など)、呼吸器系(気管、肺など)、循環器系(心臓、血管など)、腎臓・泌尿器、血液・免疫、内分泌(糖尿病、甲状腺機能障害など)、膠原病・リウマチ、アレルギーといった疾患を診断・治療する診療科です。近年では、多くの内科系診療所が生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)の予防と治療にも力を入れています。
内科医は、これらの各臓器系に関する専門知識と診断技術をもとに、患者の症状や検査結果を総合的に判断し、適切な診断と治療を行います。必要に応じて、外科や放射線科などの他の診療科と連携しながら、患者さんの病状に最適な治療法を提供する内科は、地域医療の最前線と言えるでしょう。
2. 内科を標ぼうする診療所数の推移
●内科の診療所数と推移
厚生労働省の「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」によると、内科を標ぼうする診療所数は64,747施設で、全国の104,894施設に対して61.7%を占めています。診療所数の推移を見ると、内科を標榜しているクリニックの施設数は平成23(2011)年から令和5(2023)年の間で61,207施設から64,747施設と、3,540施設増加しています。
●ほか専門内科を標榜する診療所数と推移
上記はいわゆる「一般内科」と呼ばれる最も標ぼう数の多い内科の推移ですが、この一般内科に加えて専門科目にも着目し、標ぼう数の多い順に見ていきましょう。2番目に標ぼう数の多いのは消化器内科で17,028施設(平成23年=17,353施設/※325施設の減少)です。次いで循環器内科の12,585施設(平成23年=12,034施設/※551施設の増加)、次いで呼吸器内科の7,514施設(平成23年=7,336施設/※178施設の増加)、次いで糖尿病内科(代謝内科)の4,647施設(平成23年=2,440施設/※2,207施設の増加)と、消化器内科標ぼうクリニックの減少は見られるものの、概ね増加傾向となっています。
内科を標ぼうするクリニックは39科目中最も多く全体の61.7%を占めています。また消化器内科は3番目(全体の16.2%)、循環器内科は4番目(全体の12.0%)、呼吸器内科は12番目(全体の7.2%)、糖尿病内科は16番目(全体の4.4%)となっています。人口10万対の数値は最新の情報が公表されていませんが、同様の傾向と考えられます。より詳細なデータの公開がありましたら、引き続きお伝えしてまいります。
3.内科の医師数と推移
厚生労働省の「令和4年:医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」で医療施設に従事する医師数を見ると、全国が327,444名であることに対し、内科は61,149名で、全国の医師数に占める割合は18.7%となっています。ほか主要な内科系科目を見ると、消化器内科は15,938名(全体の4.9%)、循環器内科は13,479名(全体の4.1%)、呼吸器内科は6,992名(全体の2.1%)、糖尿病内科は5,965名(全体の1.8%)となっています。
医師数の推移を見ると、平成24(2012)年から令和4(2022)年の10年で、内科の医師数が61,177名から61,149名に微減している一方で、消化器内科の医師数は13,080名から15,938名、循環器内科の医師数は11,541名から13,479名、呼吸器内科の医師数は5,337名から6,992名、糖尿病内科の医師数は3,967名から5,965名とそれぞれ増加傾向となっており、内科領域では医師のさらなる専門化が進んでいる様子が見て取れます。
3. 内科の開業資金
一般的な開業ケースを「保険外来の診療」、「手術しない」、「テナント開業」と定義し計算をした場合、下記のようになります。
●物件賃料:
内科クリニックとして最低限30~40坪程度坪程度必要を考えられ、一般診療のみとした場合、待合室や診察室、専門的な処置スペースを含めて30坪前後が必要と仮定した場合、坪単価を1万円とすると、30万円と試算出来ます。
●不動産関連費用:
敷金180~300万円、礼金30万円、仲介手数料30万円と試算。なお、敷金、礼金、仲介手数料は不動産仲介会社によって金額が異なるため、事前にご確認されることを推奨いたします。
●内装工事費用:
坪単価50~60万円とすると、面積30坪の場合は1,500~1,800万円と試算出来ます。
●医療機器:
超音波診断装置、X線撮影装置等、自動血球計数装置、CRP測定装置、電子カルテ、吸入器、全自動身長体重計などを合算すると約1,200万円程度と試算出来ます。
●什器備品:300~400万円
●広告宣伝費(HP・看板・パンフレット):300万円
●採用費(職員雇用):20万円
●開業諸費用(医師会入会金):100~200万円
●コンサルタント費用:0~300万円
●運転資金:1,500~2,000万円
合計=5,490~6,910万円
なお、下記を行う場合は追加で費用が必要となります。
*内視鏡検査システム、内視鏡洗浄機器、画像ファイリングシステム等の設備費用:800万円程度必要となると試算。
5. 内科の開業成功のポイント
①. 差別化
●ターゲットとコンセプトを明確化:
「誰のために、どのような医療を提供するのか」 を明確にしましょう。 例えば、「生活習慣病に特化したクリニック」「女性専門の内科」「夜間・休日の診療に力を入れたクリニック」など、具体的なターゲットとコンセプトを定めることで、患者との接点創出と競合との差別化を図ることができます。
●専門性をアピール:
専門医資格の取得や、特定の疾患・治療法に関する研鑽を積み、自身の専門性をアピールしましょう。論文発表や学会活動への積極的な参加も有効です。専門性の高さを示すことで、患者からの信頼を獲得しやすくなります。
●診療体制や設備の充実:
患者にとって「通いやすい」「安心できる」 診療体制・設備を整えましょう。 例えば、オンライン診療や予約システムの導入、検査機器の充実、バリアフリー設計など、患者ニーズに合わせたサービスを提供することで、差別化を図ることができ、患者さん目線のサービスを提供することで、満足度を高めることができます。
②. 物件の選択肢
●最寄駅からの距離について:
駅近でアクセスの良さを選択するのか、郊外の住宅地に根付いた診療を選択するのか、非常に難しい選択になります。お悩みの際はまず、それぞれのメリット・デメリットを整理してみましょう。例えば駅近のメリットはアクセスが良好である他、夜間でも比較的クリニック周辺が明るく人通りが多いことで、夕方以降にも患者様に安心して通院いただけることに対し、デメリットは、テナント賃料が比較的高く設定されているケースや、競合が近隣に多いため差別化施策もハードルが高くなりやすいことが挙げられます。一方で郊外のメリットは、駅近と比較してテナント賃料が安価、もしくは駅近と同額でも広い面積のテナントを借りることが可能なケースや、対象患者は地域住民がメインとなりますので、地域医療に貢献することができます。デメリットとしては、商業施設から少々距離のある場合は夜間の人通りが少なくなりやすいことや、地域住民以外の集患にハードルがあることが挙げられます。これらはあくまで一例ですが、メリット・デメリットを洗い出した上で、ご自身の専門分野や差別化施策を打ち出しやすいのはどちらか、といった視点からご検討ください。
●診療圏調査の結果について:
立地を選ぶ際には競合との位置関係を確認することも非常に重要です。その際に行われる診療圏調査ですが、この範囲設定は一般的に都心と郊外では大きく異なります。都心の場合は電車やバスなどの公共交通機関がメインの移動手段であるため、駅やバス停からの徒歩移動を考慮し、一次診療圏を半径500m前後、二次診療圏を半径750m~1,000mで設定すると良いでしょう。郊外の場合は自家用車での移動がメインであるため、一次診療圏を半径2,000~2,500m、二次診療圏を半径5,000m前後で設定し、競合医院との位置関係をご確認ください。診療圏調査の結果が出ましたら、特にその立地の来院予測数や、既存クリニック数(飽和状態か否か)の結果を踏まえ、その立地での開業をご検討ください。
③. 集客マーケティング
どれほど良い差別化施策を打ち出し、立地選択に拘っても、集客マーケティングをしなければ患者様は集まりません。インターネット上には情報が溢れている世の中ですので、いかに効率よく自院の宣伝ができるかがポイントになります。その際の施策をいくつかご紹介します。
●HP作成:
開業時の基本中の基本と言えるでしょう。昨今はGoogleビジネスなどからも情報を発信できるとはいえ、そのクリニックの正確な情報はHPから入手するものという考えを多くの人が持っています。また、自院の専門性をアピールできる最良の場となりますので、HP作成はマストと考えてよいでしょう。
●SEO対策:
“Search Engine Optimization”の頭文字を取ったもので、日本語で“検索エンジン最適化”と言われます。これは、該当される何かしらのキーワード検索をされた際、検索ユーザーの目につきやすい場所に自らのサイトやコンテンツを表示させるための施策です。多くの人は検索結果の上位に来ているものをまず確認しますので、この施策をしておくことで認知度の向上につながります。
●MEO対策:
“Map Engine Optimization”の頭文字を取ったもので、Googleマップを対象とした“地図エンジン最適化”を指します。Google検索だけでなく、Googleマップから検索する人も多いため、この施策をしておくことで、Googleマップでの露出強化を図ることができ、認知度の向上につながります。
●目立つ看板の設置:
クリニックに通院される患者様の中には、ネットを使用しない高齢者も考えられます。また、通りから見えやすい位置に看板を設置する、インパクトのある看板にする、などで視覚に訴えることは意外と有効です。
●開業時の内覧会開催:
クリニックの設備や内装を多くの人に直接見てもらえる良い機会となり、口コミによる集患が見込みやすくなります。
●屋外広告を打つ:
駅前などの人通りが多いところに広告を出すと、クリニックがある場所を通らない人にもクリニックの存在を知ってもらうことができます。また、得意とする治療や専門領域、「夜8時まで診察」「土日も診察」などの売りとなるポイントも広告に記載しておくことも集患には有効です。
6. その他:内科の開業動向について
●診療所数の長期推移
直近15年の内科を標榜する診療所数は前述「2. 内科を標ぼうする診療所数の推移」のとおりですが、長期推移を見ると、昭和50(1975)年には約50,000施設だった内科診療所数は、令和5(2023)年には64,747施設にまで増加しており、右肩上がりの傾向が続いています。この増加傾向は、高齢化の進展や生活習慣病の増加といった要因により、内科診療所の需要が高まっていることを反映しているというように考えられます。
さらに、内科診療所の中でも専門科目ごとに異なる動向が見られます。消化器内科は、ピーク時には17,353施設(1990年代)を記録しましたが、その後やや減少し、2023年には17,028施設となっています。それでもなお、内科全体で最も標榜数の多い分野であることに変わりはありません。一方、循環器内科は慢性疾患や高血圧症などの診療需要に伴い、緩やかな増加を続けています。2023年には12,585施設に達し、安定した成長が見られます。
また、呼吸器内科も喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者増加により、着実に施設数を増やし、2023年には7,514施設となりました。特筆すべきは糖尿病内科で、1975年にはほぼ存在していなかったものの、2023年には4,647施設にまで大幅に増加しています。糖尿病をはじめとした生活習慣病への関心の高まりや、専門性の必要性がこの増加を後押ししたと考えられます。
こうした内科診療所の増減傾向や専門分化の進展は、地域医療や患者ニーズの多様化を反映しています。内科医院の開業においては長期的な動向を理解し、標榜する診療科目や開業地を慎重に選定することが重要です。
●患者ニーズの変遷
一般内科では、高齢化社会の進展に伴い高齢者の患者が増加しています。 高齢者は複数の慢性疾患を併発していることが多く、従来の疾患別診療に加え、包括的な医療管理が求められています。また、認知症や介護の問題を抱える患者も増加しており、医療従事者はこれらの課題への対応も求められると言えるでしょう。消化器内科では、特に高齢者では胃がん、大腸がんなどの消化器疾患を発症しやすい傾向があります。循環器内科では、特に高齢者では高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病に加えて、心筋梗塞、脳卒中、心不全などの心疾患を患いやすい傾向があります。糖尿病内科では、糖尿病に加えて、高血圧や脂質異常症などの併存疾患を持つことが多く、複雑な医療管理が求められます。また、インスリン製剤や血糖降下薬の種類が増え、血糖コントロールの選択肢が広がっており、患者個々の病状や体質に合わせた個別化医療へのニーズが高まっています。そのため、医療従事者は、患者の状態を詳細に評価し、最適な治療法を選択するスキルが求められます。
●継承開業も選択肢に
今後、一般内科や専門性を標榜した内科クリニックの新規開業においては、このような患者ニーズを把握しながら診療圏の分析の上で開業検討がなされていくこととなりますが、今まであるクリニックの患者を引継ぐという利点を生かした継承開業という選択肢もぜひご検討ください。