静岡県の医院開業動向
静岡県は、静岡市・浜松市という2つの政令指定都市を中心に医療資源が充実している一方で、伊豆半島や山間部では医療体制の強化が課題 となっています。都市部では専門外来や在宅医療のニーズが拡大 し、開業の選択肢が広がる中、医院M&Aを活用した継承開業による低リスクな開業も注目 されています。また、観光と医療が交差する地域特性を活かし、観光客やビジネス層を見据えた医療提供も可能 です。本記事では、静岡県の概要から医療環境、開業の可能性 について、データをもとに解説いたします。

1. 静岡県の基本情報と特徴
静岡県の年齢別人口推計(2020年~2050年)を見ると、全国的な傾向と同様に少子高齢化が進行し、生産年齢人口の割合が縮小していくことが予測されています。2020年時点で0~14歳が12.1%、15~64歳が57.8%、65歳以上が30.1%でしたが、2050年には0~14歳が9.7%に減少し、生産年齢人口は50.7%へと低下する一方で、高齢者人口は39.6%に達すると見込まれています。

この推移からも分かるように、静岡県では今後ますます高齢者の割合が増加し、医療や介護のニーズが拡大していくことが予測されます。特に、65歳以上の人口割合は2025年時点で31.6%に達しています。さらに2040年には37.2%と4割近くを占める見込みです。静岡県でも他県同様、地域の医療・福祉サービスに対する期待は年々高まりを見せており、慢性疾患管理や在宅医療の強化が早急に求められています。
一方で、生産年齢人口の減少は、地域の医療を支える人材確保にも影響を及ぼします。医師や看護師、介護職員の確保がますます難しくなる中、診療所やクリニックの後継者不足が顕著になっていく可能性があります。特に、静岡県は東西に長い地形を持ち、都市部と郊外・山間部の医療格差が生じやすい特徴があることから、都市部での高度医療機関の役割強化とともに、地方の医療体制の維持が求められています。
静岡県は、東京都からも足を延ばせる観光地として、国内海外問わず観光客から人気です。伊豆半島をはじめとする温泉地や富士山周辺エリアでは、旅行者の健康管理や緊急医療体制の整備が課題となります。特に、観光業が盛んな地域では、短期滞在者への医療サービスの提供や外国人旅行者向けの医療体制の充実が求められています。
このような状況の中で、高齢者医療への対応強化や地域医療の持続可能な体制づくりが急務となっています。医療機関の継承によって、地域に根付いた診療所やクリニックを存続させることは、静岡県全体の医療提供体制の安定化にとって大きな役割を果たすでしょう。特に次世代の医師にとって、開業時のコストを抑えながら地域に貢献できる「継承開業」は、いま重要な選択肢となりつつある、とも考えられています。

●面積
7,777.07㎢(全国第13位)〔2024年1月時点〕
●人口
3,553,000人(全国10位)〔2022年10月時点〕
●県庁所在地
静岡市
●政令指定都市
静岡市、浜松市
●県内の市町村数
23市12町(計35市町)*村はありません。
●気候
静岡県は温暖な気候に恵まれており、特に沿岸部では太平洋の影響を受けて冬でも比較的穏やかです。一方で、夏は湿度が高く蒸し暑い傾向があります。静岡県のこの気候条件は、お茶の栽培に最適であり、全国的に知られる美味しい「静岡茶」の生産地としても有名です。また、伊豆半島周辺では温暖な気候と豊富な日照時間を活かし、柑橘類の栽培が盛んに行われています。
●観光
静岡県は、富士山の雄大な景色や伊豆半島の美しい海岸線をはじめ、全国でも有数の観光資源を有しています。特に温泉地としての知名度が高く、熱海や修善寺などの温泉地には年間を通じて多くの観光客が訪れます。歴史的には、駿府城や久能山東照宮などがあり、江戸時代の文化や徳川家康ゆかりの地としての魅力を持っています。また、駿河湾沿いには海の幸が豊富な漁港が点在し、新鮮な海産物を楽しむことができるのも特徴です。

●歴史
静岡県は、日本の歴史において重要な役割を果たしてきた地域の一つです。戦国時代には、今川氏、武田氏、徳川氏といった有力な武将がこの地を巡り、激しい戦いを繰り広げました。特に、徳川家康が幼少期を過ごし、晩年には隠居した「駿府城」は、戦国時代から江戸時代にかけての歴史を色濃く残す名所として知られています。また江戸時代には、東海道の主要な宿場町が県内に点在し、交通や商業の拠点として大きく発展しました。日本の東西を結ぶ要所として、多くの人や物資が行き交い、独自の文化が育まれたことも、静岡県の歴史的な特徴のひとつです。
●自然
富士山を擁する県のひとつとしても有名なのが静岡県です。その壮大な山岳景観は日本を代表するシンボルの一つで、富士山は世界遺産にも登録され、国内外から多くの観光客が訪れます。南部には温暖な気候を活かした豊かな自然が広がり、伊豆半島の海岸線や駿河湾の透明度の高い海は、ダイビングやマリンスポーツの人気スポットとなっています。また、天竜川流域や南アルプスエリアでは、登山やハイキングなど、アウトドアを楽しめる環境が整っています。

●産業
静岡県の産業は多岐にわたり、製造業、農業、観光業が主要な経済の柱となっています。特に、スズキ、ヤマハ、ホンダといった世界的に知られる企業が本社を構え、自動車・オートバイ産業が発展しています。さらに、楽器の製造でも有名で、「楽器のまち浜松」としてピアノや電子楽器の生産が盛んです。また、農業分野ではお茶やみかんの生産が全国トップクラスであり、特にお茶は国内外で高く評価されています。
●特産
静岡県の特産品は、その多様な気候と自然環境を活かしたものが多くあります。代表的なものとしてはやはり「静岡茶」で、煎茶や抹茶など高品質なお茶が全国的に知られています。また、伊豆地方の桜えびやしらすも名産として有名で、新鮮な海の幸を味わえるエリアとしても人気があります。さらに、浜名湖のうなぎ、静岡おでん、富士宮やきそばなど、ご当地グルメも豊富で、地域ごとの食文化を楽しむことができます。
2.静岡県の医療機関数と推移
厚生労働省の「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」によると、静岡県内の病院数は170施設で、全国8,122施設のうち約2.09%を占めています。また、一般診療所数は2,724施設で、全国104,894施設のうち約2.6%を占めています。診療所数の推移を見ると、過去10年間で微増傾向にあり、2014年の2,685施設から2023年には2,724施設へと39施設増加しました。一方で、病院数は2014年の182施設から2023年の170施設へと12施設減少しており、県内の医療提供体制に変化が見られます。

このように、診療所数と病院数の推移を比較すると、静岡県では診療所数が増加傾向にあるのに対し、病院数は減少傾向が続いています。小規模なクリニックによる外来診療の重要性が高まっている一方で、病院という大規模な医療機関の経営の厳しさが影響していることも考えられます。特に病院の減少は、入院医療や高度医療を担う施設の縮小を意味し、今後の地域医療の課題となる可能性があります。
静岡県は東西に長い地形で、都市部と地方部で医療機関の分布には差があります。静岡市や浜松市といった都市部では診療所が多く、医療アクセスが比較的良好であるのに対し、伊豆半島や山間部では医療機関の不足が課題となっています。高齢化は待ったなしで進んでいますので、今後は在宅医療や地域包括ケアシステムの充実が求められるでしょう。このような状況の中で、開業を検討する医師にとっては、都市部での診療所競争の激化を避け、医療ニーズの高いエリアでの開業を検討することが有益といえます。また、病院の減少により外来診療の担い手として診療所の役割がますます重要になっていくと考えられます。新規開業は勿論のこと、後継者不在のクリニックを引き継ぐ「継承開業」は、地域医療を維持する有力な選択肢となるでしょう。
3.静岡県の医師数と推移
厚生労働省の「令和4年:医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、静岡県で医療施設に従事する医師数は8,242名で、全国で医療施設に従事する医師数327,444名のうち約2.52%(全国第11位)を占めています。2014年の7,185名から1,057名増加しており、医師数の安定した増加傾向が見られます。また、人口10万人あたりの医師数は230.1名で、2014年の193.9名と比較して36.2名の上昇となっています。

過去10年間で静岡県の医師数は安定して増加しており、人口10万人あたりの医師数も右肩上がりの推移を見せています。しかし、日本全国の傾向と同様、地域による医療リソースの偏りは依然として課題です。特に、静岡市や浜松市といった都市部では医師数が充実している一方、伊豆半島や山間部では医師不足が顕著な地域もあることが指摘されています。これにより、地方部での医療アクセスの改善が求められており、へき地医療や在宅医療の充実が重要なテーマとなっています。
また、医師数の増加にもかかわらず、診療科ごとの偏在も課題となっており、特定の診療科では慢性的な人手不足が続いています。こうした状況を踏まえ、今後は都市部と地方部の医療リソースを効率的に活用し、地域医療のバランスを保つための施策が求められています。
4.静岡県の医療圏の特徴
静岡県の医療圏は、賀茂医療圏、熱海伊東医療圏、駿東田方医療圏、富士医療圏、静岡医療圏、志太榛原医療圏、中東遠医療圏、西部医療圏の合計8つの二次医療圏で構成されています。県内の主要な大病院としては、病床数の多い順に聖隷三方原病院、聖隷浜松病院、静岡県立総合病院などがあり、これらの医療機関が地域の高度医療を支えています。
医療圏ごとの特徴
静岡県は広大な地形を持ち、各地で医療サービスの提供状況に違いがあります。都市部と地方部で異なる医療ニーズが存在する点が大きな特徴です。
●都市部(静岡市・浜松市)
県庁所在地の静岡市と政令指定都市の浜松市には、大規模な医療機関が集積し、がん治療、循環器疾患、救急医療などの高度医療が提供されています。また、診療所やクリニックの数も多く、医療アクセスが比較的良好な地域です。
●観光地(伊豆半島エリア)
熱海や伊東などの観光地では、地域に密着した小規模な診療所が多く、慢性疾患の管理や急病対応を主な役割としています。また、伊豆半島の温暖な気候や自然環境を活かし、健康増進やリハビリテーションに特化した施設も点在しています。
●地方部・山間部
一方で、静岡県内でも伊豆半島の奥地や山間部では医療機関が不足している地域もあり、専門的な治療が必要な場合には、静岡市や浜松市の大規模病院への移動が不可欠となります。特に高齢化が進む地域では、在宅医療や地域包括ケアシステムの充実が求められています。
静岡県の医療提供体制はエリアによって大きく異なりますので、地域ごとの特性に合わせた医療資源の配分が重要となっています。今後は、都市部と地方部の医療格差を解消し、地域に根ざした医療の充実が求められると言えるでしょう。
5. 政令指定都市「静岡市」の医院・クリニック開業動向
静岡市の特徴
政令指定都市であり静岡県の県庁所在地でもある静岡市は、東海地方の主要都市の一つであり、商業・産業・観光の拠点として発展してきました。2024年1月時点の人口は約677,286人で、全国の政令指定都市の中で20番目の人口規模を有しています。静岡市の面積は約1,411.90平方キロメートルで、全国の政令指定都市の中でも比較的広いエリアを持っています。市内には葵区、駿河区、清水区の3つの区があり、それぞれ異なる特徴を持っています。静岡市の魅力を交通、商業、教育の3つの視点から詳しく見ていきましょう。
①. 交通の利便性
静岡市は、東海道新幹線と東名高速道路が通る東西の交通の要所であり、東京や名古屋、大阪といった大都市圏へのアクセスが良好です。市内には静岡駅を中心に鉄道路線が整備されており、さらに富士山静岡空港を利用することで国内外への移動も可能です。また、市内にはバス路線が充実しており、各地域への移動もスムーズに行えます。
②. 商業的な観点
静岡市は、商業と観光が発展した都市であり、特に静岡駅周辺や清水エリアには多くの商業施設が集積しています。静岡茶の生産地としても有名で、地元特産品を活かした商業活動が活発に行われています。また、清水港は日本有数の貿易港であり、物流の拠点としても重要な役割を果たしています。加えて、市内には歴史的な観光スポットも多く、駿府城跡や久能山東照宮などが国内外からの観光客を引きつけています。
➂. 教育環境
静岡市には静岡大学、静岡県立大学をはじめとする高等教育機関があり、研究機関や医療機関と連携した教育プログラムが充実しています。また、理系教育にも力を入れており、静岡科学館「る・く・る」などの学習施設を活用した教育活動が活発です。さらに、静岡市は文化教育にも力を入れており、茶道や伝統工芸などの地元文化に触れる機会が多いのも特徴の一つです。
静岡市の診療所数
厚生労働省の「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」によると、静岡県全体の診療所数が2,724施設であるのに対し、静岡市の診療所数は555施設となっています。これは静岡県全体の約20.4%を占めており、県内で最も多くの診療所が集積している地域の一つです。
さらに、同出典元で人口10万人あたりの診療所数を確認すると、静岡県全体が76.6施設に対し、静岡市は82.0施設となっており、県全体の平均を上回っています。このことから、静岡市が県内の医療の中心地として、幅広い医療ニーズをカバーし、都市部ならではの医療体制が整備されていることが分かります。
参考として日本医師会の「地域医療情報システム」を活用すると、より詳細な診療圏に関する情報を得られ、開業エリアを決めるうえでの参考値としてご活用いただけます(最新の地域内医療機関情報の集計値※人口10万人あたりは、2020年国勢調査総人口で計算)。このシステムでは、静岡医療圏の診療所数は、497施設で、静岡県内で浜松市に次いで多い施設数です。東海道新幹線が停車する静岡駅を中心に人口が集中していることが伺えます。なお、診療所の標榜科目の中で、最も多いのが内科系の278施設、次に多いのが外科系(整形外科、脳外科など)の126施設という状況です。逆に、最も少ないのは産婦人科系の29施設です。
静岡市の医師数とその推移
厚生労働省の「令和4年:医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、静岡県全体で医療施設に従事する医師数は8,242名であるのに対し、静岡市で医療施設に従事する医師数は1,834名(静岡県全体の約22.2%)です。また、人口10万人あたりの医師数を比較すると、全国平均は262.1人、静岡県は230.1人、静岡市は268.5人となっています。これは静岡市が県内でも比較的医師の充実したエリアであることを示しています。
また、医師数の推移を見ても、静岡市の医師数は2014年の1,532名から2022年の1,834名へと302名増加しており、人口10万人あたりの医師数も216.7人から268.5人へと上昇しています。

静岡市は、県内最大の医療都市として、病院・診療所の数が多く、専門医療機関も集積しているエリアです。特に静岡県立総合病院や静岡済生会総合病院などの大規模病院があり、高度な医療サービスを提供する施設が整備されています。これにより、県内全域からの患者受け入れも多く、地域医療の中核を担っていることが分かります。また、人口10万人あたりの医師数が全国平均を上回っていることから、医療リソースの充実度は全国的にも比較的高い水準にあると言えます。これにより、がん治療や心血管系疾患の専門診療、救急医療体制の強化など、幅広い医療ニーズに対応できる体制が整っています。
一方で、静岡市内でも医師の偏在が課題となっています。中心市街地や静岡駅周辺には医療機関が集中しているものの、郊外や山間部では医師不足が見られる地域もあります。特に静岡市北部エリアでは医療アクセスの格差が課題となっており、今後は地域ごとの医療バランスを考慮した施策が求められるでしょう。また、静岡市は災害リスクの高い地域でもあり、南海トラフ巨大地震を想定した災害医療体制の強化が必要とされています。これに対応するため、静岡市では広域医療連携や遠隔診療の導入など、医療の持続可能性を高める施策が進められています。今後の静岡市の医療体制は、都市部の充実した医療資源をいかに県内の医療過疎地域へと広げるかが重要なテーマとなるでしょう。引き続き、医療アクセスの向上や医師確保のための支援策が求められます。
6. 政令指定都市「浜松市」の医院・クリニック開業動向
浜松市の特徴
浜松市は、全国の政令指定都市の中で最も広い面積を持ち、2024年1月時点の人口は約779,780人で、全国の政令指定都市の中では15番目の人口規模を有しています。市内には中区、東区、西区、南区、北区、浜北区、天竜区の7つの区があり、それぞれが特色を持っています。では、交通・商業・教育の3つの視点から見ていきましょう。
①.交通の利便性
浜松市は、東海道新幹線の浜松駅があるため、東京や大阪へのアクセスが非常に良好です。さらに、東名高速道路や新東名高速道路が通っており、車での移動もしやすい環境にあります。市内の移動には遠州鉄道(遠鉄)やバス路線が整備されており、公共交通機関を利用した移動も可能です。また、浜松市は自動車・オートバイ産業の中心地であることから、道路インフラが整備されており、車社会としての利便性も高いことが特徴です。
②.商業的な観点
浜松市は、製造業が非常に盛んな都市であり、ヤマハ、スズキ、ホンダといった世界的に有名な企業が本社を構えています。特に自動車、オートバイ、楽器、光学機器といった分野で高い技術力を誇り、地域経済の柱となっています。また、浜松駅周辺には商業施設が充実しており、地元の特産品やグルメも楽しめるエリアが広がっています。さらに、浜松餃子やうなぎなど、全国的に知られる名物料理も観光客を引きつける要素となっています。
➂.教育環境
浜松市には国立浜松医科大学をはじめ、多くの高等教育機関があり、医療分野や工学・音楽などの専門教育が充実しています。特に、浜松市は「音楽のまち」として知られ、ヤマハの影響もあり、音楽教育や楽器製造技術の研究が盛んです。また、浜松医科大学は地域医療との連携にも力を入れており、地元の医療従事者の育成に貢献しています。こうした学術環境の充実は、医療やものづくり産業の発展に大きな影響を与えています。
浜松市の診療所数
厚生労働省の「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」によると、静岡県全体の診療所数が2,724施設であるのに対し、浜松市の診療所数は650施設となっています。これは静岡県全体の約23.9%を占めており、県内でも特に医療機関が充実しているエリアの一つです。
さらに、人口10万人あたりの診療所数を確認すると、静岡県全体が76.6施設であるのに対し、浜松市は83.3施設となっており、県平均を上回る水準です。同じ政令指定都市の静岡市と比較すると、静岡市の診療所数は555施設、人口10万人あたりの診療所数は82.0施設であり、浜松市の方が、医療資源が豊富であることが分かります。この背景には、浜松市が医療機関の集積地として発展してきたことに加え、国立浜松医科大学をはじめとする医療系教育機関の存在が、地域の医療供給力を高めていることが要因として考えられます。また、浜松市は製造業が盛んな都市であり、労働人口の健康管理や産業医療の充実にも力を入れているため、働く世代にとっても医療へのアクセスが良好な環境が整っています。
しかし浜松市の西部地域で診療所が充実している一方で、天竜区などの郊外エリアでは医療機関の数が比較的少ない傾向にあり、今後は地域ごとの医療格差を解消するための取り組みが重要となるでしょう。浜松市は静岡県内でも医療の充実した都市の一つであり、診療所の数や医療アクセスの面で優位性があることが分かりますが、政令指定都市での開業を検討される場合は、細かい診療圏の検討が必要です。
浜松市の医師数とその推移
厚生労働省の「令和4年:医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、静岡県全体で医療施設に従事する医師数は8,242名である中、浜松市で医療施設に従事する医師数は2,310名(静岡県全体の約28.0%)となっています。また、人口10万人あたりの医師数を比較すると、全国平均は262.1人、静岡県は230.1人、浜松市は294.6人となっており、全国平均を上回る水準です。これは、浜松市が静岡県内で最も医師数が多く、医療資源の充実した都市の一つであることを示しています。
つづいて医師数の推移を見ると、浜松市の医師数は2014年の1,986名から2022年の2,310名へと324名増加しており、人口10万人あたりの医師数も251.1人から294.6人へと上昇しています。

浜松市は、静岡県全体の約3割の医師を抱える医療の中心地であり、県内外からの患者受け入れも多いエリアです。特に、国立浜松医科大学附属病院や聖隷浜松病院といった大規模な医療機関が集積しており、高度医療の提供体制が整備されていることが特徴です。また、人口10万人あたりの医師数が全国平均を上回ることからも、医療リソースの充実度は全国的に見ても高い水準にあるといえます。これにより、がん治療、循環器疾患の専門医療、救急医療、産業医療などの分野が発展しており、幅広い医療ニーズに対応できる環境が整っています。
このように浜松市は、医療機関の充実度が高い一方で、クリニック単位での専門的な外来診療のニーズも高まっているエリアです。しかし大病院への受診が多くなりがちな都市部では、専門性の高い診療所や、地域に根ざしたかかりつけ医の役割を担うクリニックが求められています。特に、浜松市の西部エリアや郊外地域では、診療所数が中心市街地に比べて少ないため、これらの地域での開業は大きなチャンスとなります。また、浜松市は製造業の拠点として働く世代が多いことから、労働人口を対象とした健康管理や予防医療、産業医のニーズも高いエリアです。
加えて、浜松市は高齢化の進行が比較的早い地域でもあり、在宅医療や訪問診療の分野で新たなクリニックが求められている状況です。これに対応する形で、在宅医療を提供する診療所や、リハビリテーションを重視したクリニックなどの開業も有望な選択肢となるでしょう。さらに、浜松市は医療関連の研究・教育機関との連携が可能なエリアでもあり、新規開業医にとっても学術的なサポートを受けながら診療を展開しやすい環境が整っています。特に、浜松医科大学との協力関係を築くことで、最新の医療知識や技術を活かした診療が可能となる点は、他地域にはない魅力といえます。
7.その他静岡県の開業動向のまとめ
静岡県は、県全体の医療資源が静岡市・浜松市などの都市部に集中し、地方部との医療格差が課題となっている地域 です。特に、伊豆半島や山間部では診療所や医師の数が限られ、地域住民の医療アクセスが制限されるケースが増えています。
一方で、静岡市と浜松市の二大政令指定都市を中心に、県内の診療所数や医師数は全国的に見ても比較的高い水準を維持 しており、医療の中心地として機能しています。特に浜松市は、診療所数・医師数ともに静岡市を上回る 充実度を誇り、医療体制の整備が進んでいるエリアといえます。しかし、こうした医療資源の集積が進む一方で、都市部では競争が激化し、地域によっては診療科の偏在や後継者不足が顕在化する 課題も浮かび上がっています。
また、全国的な傾向と同様に、静岡県でも医師の高齢化や後継者不在が進んでおり、継承問題が深刻化 しています。特に、都市部では医療機関の統廃合が進む可能性があり、地方部では後継者不足による診療所の閉院が増加することが懸念されています。静岡県でのクリニック開業を検討する際には、地域の医療ニーズを正しく把握し、都市部と地方部の医療ギャップを埋める視点を持つことが重要です。例えば、都市部では診療科の差別化や専門性の高いクリニックが求められ、地方部では地域密着型の「かかりつけ医」としての機能を果たすことが期待されています。
特に、観光資源の豊富な伊豆半島などのエリアでは、慢性疾患の管理や救急対応を担う地域医療機関が不可欠です。また高齢化が進む地域では、在宅医療や訪問診療を提供するクリニックの開業が切に求められています。静岡県は、都市と地方の両方に開業のチャンスがあり、地域医療の充実に貢献できるポテンシャルを持つ県です。地域医療の未来を支える選択肢の一つとして、クリニックの新規開業や、既存の診療所を引き継ぐ「継承開業」を検討することが、今後の静岡県の医療を支える鍵となるでしょう。
※日本医師会提供の「地域医療情報システム」では、最新の地域ごとの医療機関情報や統計データをご確認いただけます。人口10万人あたりの数値は2020年国勢調査の総人口を基に計算されており、最新の情報に応じて数値が変動する場合があります。必要に応じて、随時ご参照ください。