埼玉県の医院開業動向
埼玉県は東京のベッドタウンとして利便性に優れ、さいたま市に広がる大規模商業地区や家族向け住宅地、のどかな田園風景が共存するエリアです。歴史と文化が息づく街並み、豊かな自然環境、そして活気ある経済基盤が揃い、クリニック開業に適した多様な選択肢を提供しています。埼玉県ならではの特性や開業動向について、データを交え解説いたします。
1.埼玉県の基本情報と特徴
●年齢別推計人口
埼玉県の年齢別人口推計(2020年~2050年)を見てみると、全国的なトレンドと同様に少子高齢化がさらに進むことが予測されています。2020年時点では、0~14歳が12.8%、15~64歳が63.6%、65歳以上が23.6%を占めています。しかし、2050年には生産年齢人口(15~64歳)は大幅に縮小し、高齢者人口(65歳以上)が全体の32.2%を超える見込みです。一方で、年少人口(0~14歳)は引き続き低下傾向が続くとされています。
今後、埼玉県では労働力不足や医療・福祉サービスの需要増加が深刻化する可能性が高く、特に医療機関の役割がますます重要になってきます。さらに、地域ごとの人口分布の偏りや都市部と郊外の医療資源の格差など、埼玉県ならではの課題にも目を向ける必要があるといえるでしょう。このような状況を受けて、埼玉県では少子化対策、働き手の確保、高齢者が安心して暮らせる環境整備が急務となり、身近な医療機関であるクリニックの果たす役割も、重要となっています。
●面積
3,797.75km2(全国第39位)〔2024年1月時点〕
●政令指定都市
さいたま市
●県庁所在地
さいたま市
●県内の市町村数
40市22町1村(計63市町村)
●気候
埼玉県の気候は内陸性気候の特徴を持ちます。夏は高温多湿であり、特に内陸部では35度を超える猛暑日が多く見られます。一方で冬は寒く乾燥し、平野部でも氷点下になる日があります。春と秋は比較的穏やかで過ごしやすいですが、夏から秋にかけては台風の影響を受けやすい時期もあります。
●観光
埼玉県は自然、歴史、現代の魅力が融合した地域であり、多様な観光地があります。歴史的に重要な川越市では、「小江戸」と称される古い町並みが楽しめます。また、鉄道ファンには鉄道博物館が、アニメファンには「聖地巡礼」のスポットとして知られる所沢市があります。自然愛好家向けには、秩父地方の山々や、長瀞の岩畳がおすすめです。これらの地域はそれぞれ異なる魅力を提供しており、埼玉県の多面的な文化と自然の美しさを体験することができます。
●歴史
埼玉県の中でも興味深い歴史をたどり注目されるのは、さいたま市です。さいたま市は2001年5月1日に浦和市、大宮市、与野市の3市が合併して誕生しました。この地域は歴史的に「武蔵野の国」として知られ、多くの歴史的変遷を経て現在の形に至っています。市の名前は「埼玉郡」という古い地名に由来し、これを「さいたま」と読むことから「さいたま市」と命名されました。さいたま市は合併により、政治、経済、文化の各分野で埼玉県内の中心地としての地位を確立し、県庁所在地としても機能しています。市内には多くの商業施設、教育機関、文化施設が集まり、都市としての魅力を増しています。
●自然
埼玉県の県庁所在地さいたま市が都市部の魅力を発揮する一方、埼玉県全体は自然に恵まれ多様な面を持っています。市内には豊かな水系が流れ、多くの緑地や公園があります。特に、大宮公園や見沼田んぼのような広大な自然保護区域は、市の貴重な緑のオアシスとなっています。これらの自然環境は、市民の憩いの場であり、多様な野鳥や水生動植物の生息地としても重要です。また、市の郊外には森林や丘陵が広がり、季節ごとに異なる自然の美しさを見せてくれます。このように、さいたま市の自然は都市と自然が調和した環境を提供しており、住民にとっても訪れる人々にとっても魅力的な場所となっています。
●産業
主要産業は1位:卸売・小売業、2位:不動産業、3位:製造業であり、産業別就業者の割合は第一次産業が0.0%、第二次産業が13.5%、第三次産業が86.5%となっています。実質市内総生産額は約3 兆 3819 億円です。
●特産
さいたま市は埼玉県の県庁所在地で、農産物や加工品が多く生産されています。特に「彩の国優良ブランド品」として認定される農産物が豊富で、野菜や果物、お茶などがあります。また、埼玉県はさつまいもの名産地としても知られ、さいたま市内でも「川越いも」が栽培されています。さらに、関東地方の伝統的な特産品であるうなぎの蒲焼も人気です。これらの産品は、「さいたま市産業文化センター」などで展示・販売されており、地元の食文化を支える重要な役割を果たしています。
2.埼玉県の診療所数の推移
厚生労働省:「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」によると、全国の病院数が8,122施設であることに対し、埼玉県の病院数は342施設(対全国4.21%)となっています。また全国の一般診療所数が104,894施設であることに対し、埼玉県の一般診療所数は4,530施設(対全国4.32%)となっています。
また診療所数を10年前と比較すると、382施設の増加となっており、以下の通り推移しております。
3. 埼玉県の医師数と推移
厚生労働省:「令和4年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、全国で医療施設に従事する医師数が327,444名であることに対し、埼玉県で医療施設に従事する医師は13,224名(対全国4.04%、全国7位)となっており、埼玉県全体の医師数を2014年と比較すると2,166名増加しています。また埼玉県の人口10万人対医師数は186.2人となっており、2014年の158.9人と比較すると27.3人増加しています。
4.埼玉県の医療圏の特徴
埼玉県の医療圏は南部、南西部、東部、さいたま、県央、川越比企、西部、利根、北部、秩父の合計10の二次医療圏から成り立っています。さいたま市が含まれるさいたま医療圏の大病院では病床数多い順にさいたま赤十字病院、さいたま市立病院、自治医科大学附属さいたま医療センターとなります。
埼玉県の医療圏医療施設の分布としては、中心部に医療施設が集中しており、アクセスが容易です。都市部には高度な医療機関が存在し、専門的な治療が可能となります。また高齢化が進む中、高齢者向けの医療サービスが充実に注力している点も特徴です。
5. 政令指定都市「さいたま市」の医院・クリニック開業動向
さいたま市の特徴
さいたま市は、埼玉県の県庁所在地でもある政令指定都市で、以下のような特徴があります。
➀. 交通の利便性
さいたま市は首都圏の中でも特に交通のアクセスが良好です。多くのJR東日本の路線が交差し、東京都心へのアクセスも容易です。特に、埼京線や京浜東北線、新幹線が利用可能で、ビジネスや観光での移動が便利です。
➁. 文化・スポーツ施設の充実
さいたま市はさいたまスーパーアリーナをはじめとする多くのスポーツ施設があり、コンサートや国際的なイベントが頻繁に開催されます。また、大宮盆栽美術館のような文化施設もあり、日本の伝統文化に触れることができます。
③. 自然との調和
市内には緑豊かな公園が多く、自然とのふれあいを楽しむことができます。大宮公園や武蔵丘陵森林公園など、家族連れやスポーツ愛好者に人気のスポットがあります。
さいたま市の診療所数
厚生労働省の「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」でさいたま市の診療所数を見ると、1,028施設です。これを人口10万人当りの診療所数に換算すると、76.5施設です。市内の人口10万人対診療所医師数は195.9人で、埼玉県内にある全市の平均59.7施設・180.2人を上回っていることから、埼玉県内でも診療所数・医師数が多いエリアということがわかります。
日 本医師会の「地域医療情報システム」によると、さいたま市医療圏の診療所数は、945施設で、埼玉県内の他の医療圏と比べても多い施設数です。人口が多く商業も活発なエリアのため、医師が開業しやすい環境であるのがその理由でしょう。なお、診療所の標榜科目の中で、最も多いのが内科系の573施設、次に多いのが外科系(整形外科、脳外科など)の266施設です。逆に、最も少ないのは産婦人科系の46施設です。
さいたま市の医師数と推移
厚生労働省:「令和4年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、県庁所在地であるさいたま市の医師数は2,670名(対全国0.82%・対埼玉県20.2%)で、2014年比較すると546名増加しています。
さいたま市医療圏の人口10万人対医師数は、全国平均262.1人・埼玉県全体180.2人に対し199.4人となっており、2014年の168.6人と比較すると30.8人増加しています。全国平均と比較すると少なく、埼玉県全体と比較すると多い人数で、医師数から推測するとさいたま市の開業医ニーズは飽和状態とも考えられます。
6.その他埼玉県の開業動向
埼玉県はさいたま市を中心に展開します。さいたま市の面積は217.43 km2と47都道府県の県庁所在地の中でも41位となっており、埼玉県内 で1位、日本全国市区町村別でも9位に入る人口を擁するさいたま市において、診療所数でもまだ不足していると言える状態ではありませんが、エリアによって医療の過疎化が進んでいることから、開業をお考えの方には、さいたま市の医療の充実を図るべく、ぜひ候補地に入れていただきたい地域です。
さいたま市でのクリニック新規開業に関連する最新の動向は、医療業界全体の課題と密接に関連しています。特に、経営者の高齢化や後継者不在の問題が深刻化しており、これにより医療機関の休廃業や解散が増加しています。後継者不在率は全業種中で3番目の高さに達し、特に小規模な診療所でこの問題が顕著になっています。加えて、医療業界では人材不足も深刻な問題です。特に、看護師の確保がクリニックの収益性維持に重要となっていますが、慢性的な人材不足に直面しています。これらの課題に対処するために、多くのクリニックではM&A(企業の合併や買収)を活用する動きが見られ、これが現在の医療業界の大きなトレンドとなっています。特に、M&Aは経営の安定化、従業員の雇用維持、売却利益の獲得など、売り手にとって複数のメリットをもたらす一方で、買い手にとっては人材や診療科目の拡充、病床数の拡大などのメリットがあります。
これらの情報から、さいたま市でクリニックを新規開業する場合、経営者は業界の現状やトレンド、特に人材確保や後継者問題に注意を払う必要があるでしょう。また、将来的にM&Aを視野に入れた経営計画を立てることも一つの戦略となり得ます。さいたま市で開業をお考えの方は、継承開業もご検討ください。