大阪府の医院開業動向
大阪府は日本有数の人口密集地で、大阪市や堺市などの政令指定都市では、都市部ならではの活気ある医療環境が広がっています。一方で、郊外や地方部では医療資源の偏在や過疎化といった課題が顕著であり、医療提供体制のさらなる充実が求められています。大阪の地域ごとの特色は、これから開業や医院継承を考える先生方にとって、理想の場所を見つける幅広い可能性とチャンスを広げています。開業の新たな一歩を踏み出す場として、大阪府の医療環境や開業のポイントをご覧ください。
1.大阪府の基本情報と特徴
●年齢別推計人口
大阪府の年齢別人口推計(2020年~2050年)で、大阪府の過去および将来の人口推計グラフを確認していきましょう。人口構成において高齢化の進展が際立っています。2020年時点では、0~14歳が11.7%、15~64歳が60.7%、65歳以上が27.6%を占めています。2050年には子ども年齢層が9.7%へ減少し、生産年齢人口も53.7%まで縮小する一方で、高齢者人口は36.6%へと増加する見込みです。大阪府では高齢化がさらに進行する中で、都市部を中心とした医療需要が急増すると予測されており、特に、慢性疾患や高齢者医療、在宅医療の充実が課題とされています。
また、大阪市や堺市のような大都市では比較的若年層の流入が期待される一方で、郊外部では過疎化や高齢化の進行が顕著になる可能性があります。このため、大阪府全体では地域ごとの特性に応じた医療サービスの確保や生活環境の整備が重要とし、府を上げて超高齢化社会への対応に注力しています。
●面積
1,905.34 km2(全国第46位)〔2024年1月時点〕
●人口
8,782,000人(全国3位)〔2022年10月時点〕
●府庁所在地
大阪市
●政令指定都市
大阪市、堺市
●市町村数
33市9町1村(計43市町村)〔2024年1月時点〕
●気候
気候は、瀬戸内型気候に属し、年間を通して温暖で晴天の日が多く、降水量が比較的少なく、また、四季による季節的変化が著しいのが特徴となっています。平成 19 年度~平成 23 年度(2007~2011)の気象データによると、平均気温は 16.8℃、平均降水量は年間 1,276mm となっています。風は季節を通じて西南西から吹くことが多くあります。
●観光
1583年、豊臣秀吉により築城された大阪城は大阪のシンボルとして世界的に有名です。また、大阪のシンボルと言われている大阪城を始め、道頓堀や新世界、通天閣など、全国的に非常に知名度の高い観光スポットが多いことが特徴です。他にも、世界文化遺産への登録をめざした取組みが進められている仁徳天皇陵古墳を始めとする百舌鳥古墳群、南蛮貿易の拠点として発展した中世の自治都市「堺」を起源とする環濠都市区域における由緒ある多くの寺社や北旅籠町周辺の古い町並みなど、さらに千利休によって大成された茶の湯の文化、刃物や線香などの伝統産業など多くの観光資源が全国的に高い知名度があります。
●歴史
大阪府は5世紀の頃から日本の経済、政治の中心地として栄えました。それから戦乱の世をこえ、豊臣秀吉が日本統治をするための拠点を大阪に置き1583年に大阪城を建立したことで大規模な工事により大阪城を囲む堀がつくられ、大阪の川は広がり、海から繋がる交通の拠点として発展しました。しかしながら、1614年の大坂冬の陣、1615年大坂夏の陣によって、大阪城とその城下町は焼かれ、豊臣氏も滅亡、徳川家が実権を握り、政治の中心は江戸(現在の東京)に移りました。
●自然
大阪府は、西面で瀬戸内海(大阪湾)に臨み、北面、東面、南面の各境界に沿って北摂山地、生駒・金剛山地、和泉山地が取り囲む盆地構造の上に成り立っています。主に、淀川以北の北部域には山地・丘陵地が、中央部には沖積低地が、現大和川以南の南部域には丘陵地・台地が分布しています。また、大阪湾に面した沿岸地域は古くから埋立てが施されており、自然の海岸は全海岸線の1%程度しか残されていません。
●産業
大阪府の主要産業は1位:卸売・小売業、2位:製造業、3位:サービス業であり、産業別就業者の割合は第一次産業が0.5%、第二次産業が22.2%、第三次産業が68.5%となっています。実質府内総生産額は約40 兆1,956 億円です。
●特産
国指定伝統的工芸品に指定されている堺打刃物をはじめとした刃物類や、16世紀の終わりに中国から製法が伝わり、日本で初めての線香となる堺線香が全国的に高い知名度があります。また、杉、桐などの比較的薄目の板に、図柄を彫りぬいた大阪欄間彫刻や、豚肉100%の中華まんじゅうなど、全国的に知名度の高い食品が多いことも特徴です。
2.大阪府の医療機関数と推移
厚生労働省:「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」によると、・全国の病院数が8,122施設であることに対し、大阪府の病院数は502施設(対全国6.18%)となっています。また全国の一般診療所数が104,894施設であることに対し、大阪府の一般診療所数は8,877施設(対全国8.46%)となっています。2014年からの推移を見ると、病院は530施設から502施設と28施設の減少、一方で診療所は8,307施設から8,877施設と570施設の増加となっています。
病院数が減少する一方で、診療所数は堅調に増加しており、特に地域医療を支える診療所の重要性がますます高まっています。診療所の需要が地域医療の中核として拡大、特に高齢化の進行や在宅医療の需要の増加に伴い、大阪府内の診療所の役割は一層重要になるでしょう。
3.大阪府の医師数と推移
厚生労働省の「令和4年:医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、全国で医療施設に従事する医師数は327,444名であり、そのうち大阪府には25,336名(全国比7.73%)が従事しており、全国第2位となっています。10年前と比較して、大阪府全体の医師数は2,199名増加しており、地域医療基盤の強化が見て取れます。
また、人口10万人対医師数も上昇傾向にあり、大阪府内でも医療資源の偏在が顕著です。特に、後述する県庁所在地の大阪市には9,413名(大阪府全体の37.15%)の医師が集中しており、府内の中心的な医療拠点となっています。一方、堺市では2,003名(大阪府全体の7.90%)が勤務しており、その他の地域では医師不足が課題となっています。
こうした状況は、新規開業や継承開業(M&A)を検討する際に、地域ごとの医療需要を戦略的に捉える必要性を示しています。大阪市内では安定した患者基盤と高い医療需要が見込まれる一方で、堺市や地方部では、地域に根差した医療提供を通じて大きなやりがいを得られる可能性があると言えるでしょう。
4.大阪府の医療圏の特徴
大阪府の医療圏は豊能、三島、北河内、中河内、南河内、堺市、泉州、大阪市の合計8の二次医療圏から成り立っています。また大阪府内の大病院では病床数多い順に大阪大学医学部附属病院、大阪市立総合医療センター、阪和第一泉北病院となります。以下は大阪府の医療圏の特徴です。
➀. 災害医療
地震などの自然災害に備えた災害医療システムが構築されており、緊急時の対応が迅速に行われます。
➁. 国際医療センター
国際的な医療ニーズに応えるため、大阪府には外国人患者を受け入れる国際医療センターがあります。
➂. 先進医療の提供
高度な医療技術を有する病院が多く、特にがん治療や心臓病治療などの先進医療が充実しています。
5. 府庁所在地・政令指定都市「大阪市」の医院・クリニック開業動向
大阪市の特徴
➀. 交通の利便性
鉄道網では、JR西日本が大阪環状線、東海道本線(新快速)、関西本線など、多くの路線が大阪市を通り、京都、神戸、奈良などへのアクセスが良好です。私鉄は阪急電鉄、阪神電鉄、近畿日本鉄道(近鉄)、南海電鉄が大阪市内に乗り入れており、関西地域の各都市へ直通運転しています。また、地下鉄では大阪メトロ(大阪市営地下鉄)が多くの路線を運行しており、市内の主要エリアへのアクセスが非常に便利です。道路網は、阪神高速道路が阪神高速1号環状線をはじめ、多くの高速道路が大阪市内を通り、車での移動もスムーズです。主要国道は国道1号線や2号線、26号線など、主要な幹線道路が整備されています。そのほか、関西国際空港は南海電鉄やJRの快速列車で大阪市内から直通でアクセス可能で、大阪国際空港(伊丹空港)はモノレールやバスでのアクセスが便利です。
➁. 商業的な観点
大阪駅周辺には、グランフロント大阪、大阪ステーションシティ、阪急百貨店、阪神百貨店など、多くのショッピングモールやデパートが集中しています。また、難波・心斎橋は、なんばCITY、なんばパークス、心斎橋筋商店街、道頓堀など、多くの商業施設や観光スポットが集まるエリアです。ほか、天王寺にはあべのハルカスをはじめとする大型商業施設があり、ショッピングや飲食が楽しめます。また黒門市場は新鮮な食材やお土産が揃う市場で、多くの観光客が訪れ、新世界は通天閣を中心にしたレトロな雰囲気の商店街で、串カツなどの大阪名物が楽しめます。
➂. 教育環境
小学校から高校まで、多くの公立学校があり、教育の質も高いとされているほか、大阪市内には有名な私立学校が多数あり、教育の選択肢が豊富です。日本を代表する国立大学である大阪大学は、吹田市や豊中市にメインキャンパスがありますが、大阪市内にも医療系のキャンパスがあります。また、大阪市が運営する大阪市立大学は多様な学部が揃っており、関西大学は梅田キャンパスを含む大阪市内にキャンパスを持つ私立大学です。そのほか、大阪市立図書館は各区に複数あり、学習や調査に利用できるほか、多くの学習塾や予備校が市内にあり、受験対策や補習が充実しています。
大阪市の診療所数
厚生労働省:「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」で大阪市の診療所数を見ると、3,734施設です。これを人口10万人当りの診療所数に換算すると、134.8施設で、大阪府全体の平均101.3施設を大幅に上回っていることから、大阪市は県内でも診療所数が多いエリアであることが分かります。
日本医師会の「地域医療情報システム」を活用すると、より詳細な診療圏に関する情報を集める事ができ、開業エリアを決めるうえでの参考値としてご活用いただけます(最新の地域内医療機関情報の集計値※人口10万人あたりは、2020年国勢調査総人口で計算)。こちらのシステムでは2024年12月確認時点で、3,555施設となっており、大阪府内の他の医療圏と比較し多い施設数です。人口が多く商業も活発なエリアのため、医師が開業しやすい環境であることが大きな理由となっています。また診療所の標榜科目の中で、最も多いのが内科系の2,242施設、次に多いのが外科系(整形外科、脳外科など)の1,027施設です。逆に、最も少ないのは耳鼻咽喉科系の201施設です。
大阪市の医師数の推移
厚生労働省の「厚生労働省:「令和4年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、大阪府全体で医療施設に従事する医師数が25,336名であることに対し、大阪市で医療施設に従事する医師数は9,413名(大阪府全体の約37.15%)です。また人口10万人対医師数では、全国平均262.1人、大阪府288.5人に対し、大阪市は341.4人となっています。大阪市は県内のみならず、全国平均と比較しても医師数の大変多いエリアであることが分かります。過去10年間の推移を見ても、大阪市の医師数は2014年の8,717名から2022年の9,413名へと696名増加し、人口10万人対医師数も324.5人から341.4人へと上昇しています。大阪市は医療需要の高い都市として、多くの医師を引きつけていると言えるでしょう。
さらに、日本医師会の「地域医療情報システム」(2024年12月時点)のデータによると、大阪市の医療圏全体の人口10万人対医師数は388.75人であり、全国平均の287.4人を大きく上回っています。市内の24区の中でも中央区(1,088.64人)と天王寺区(1,063.32人)は特に医師が集中しており、医療供給が飽和状態といえます。一方で、此花区、港区、大正区などの17区では市内平均の388.75人を下回り、医師が不足している状況が浮き彫りになっています。
このような背景から大阪市内での開業を検討する際には、医師の不足しているエリアで高いニーズに応える事が一つの選択肢、また一方で医療需要が高く競争の激しい中央区や天王寺区では、独自性のある診療スタイルや専門性を打ち出すことが成功に繋がると考えられます。
6. 政令指定都市「堺市」の医院・クリニック開業動向
堺市の特徴
➀. 交通の利便性
鉄道面では、南海本線と高野線が堺市を通り、大阪市内や和歌山方面へのアクセスが便利です。JR西日本は阪和線が堺市を通り、大阪市や関西国際空港へのアクセスが良好です。その他、泉北高速鉄道線は、堺市の北部から南部にかけて広がり、大阪市内への直通運転も行われています。道路網は、阪神高速道路が堺市には阪神高速15号堺線と4号湾岸線が通じており、大阪市内や神戸方面へのアクセスが容易です。その他、主要国道は国道26号線や310号線など、主要な幹線道路が整備されており、車での移動もスムーズです。
➁. 商業的な観点
アリオ鳳や堺プラットプラザなどの大型ショッピングモールには、多くの専門店やレストラン、映画館などが入っており、日常の買い物に便利です。伝統的な商業エリアとして、堺駅周辺や堺東商店街は、大型デパートや専門店や地元の人々に親しまれている商店街で、多様な店舗が並んでいます。
➂. 教育環境
小学校から高校まで、多くの公立学校があり、教育水準が高いとされているほか、大阪府内の他地域と同様、私立学校も充実しており、選択肢が豊富です。また、堺市には大阪府立大学のキャンパスがあり、高等教育の場としても知られています。ほかにも、堺市には市立図書館が多くあるほか、多くの学習塾や予備校があり、受験対策や補習などの教育支援が受けられます。
堺市の診療所数
厚生労働省:「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」から堺市の診療所数を見ると、744施設です。これを人口10万人当りの診療所数に換算すると、91.6施設で、大阪府全体の平均101.3施設を下回っており、人口の多い政令指定都市でありながらも、大阪府内でも診療所数の少ないエリアとなっています。
日本医師会:「地域医療情報システム」では、より詳細な診療圏に関する情報が集約されており、参考値としてご活用いただけます(最新の地域内医療機関情報の集計値※人口10万人あたりは、2020年国勢調査総人口で計算)。こちらのシステムでは堺市医療圏の診療所数は720施設です。なお診療所の標榜科目の中で、最も多いのが内科系の447施設、次に多いのが外科系(整形外科、脳外科など)の181施設です。逆に、最も少ないのは産婦人科系の33施設です。
堺市の医師数と推移
厚生労働省:「令和4年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、大阪府全体で医療施設に従事する医師数が25,336名であることに対し、堺市市で医療施設に従事する医師数は2,003名(大阪府全体の約7.91%)です。また人口10万人対医師数では、全国平均262.1人、大阪府285.7人に対し、堺市は245.2人となっています。2014年からの推移では堺市の医師数は2014年の1,840名から2022年の2,003名へと163名増加し、人口10万人対医師数も219.0人から245.2人へと26.2人上昇しています。このように医師数の増加は見られるものの、堺市は人口の多い政令指定都市であり、昨今の少子高齢化社会に対応するため、医療のさらなる充実が課題となっているさまが見て取れます。
日本医師会の「地域医療情報システム」による2024年12月時点の数値では、堺市医療圏の人口10万人対医師数は、284.19人で、大阪府内の人口10万人対医師数322.71人と比較すると少ない人数と言え、全国平均287.4人から見ても少ないため、まだまだ開業医へのニーズは高い状態と言えます。堺市内にある7の地域 のうち、最も医師数が多いのは堺市堺区の402.00人で、7区のうち断トツの多さです。次いで多いのが堺市中区の353.03人です。堺市内の7区のうち堺区・中区・西区・北区以外の3区に関しては堺市の人口10万人対医師数239.1人以下で、医師が不足傾向にあると言えるでしょう。そのため、堺市内で開業する場合には、医師が不足している東区、南区、美原区のいずれかで行った方が、ニーズが高いと考えられます。
7.その他大阪府の開業動向まとめ
大阪府は、全国で46番目に小さな面積ながら、日本で市区町村別人口2位の大阪市と15位の堺市という、国内有数の大都市を抱える都道府県です。このような人口密集地がある一方で、府内の一部地域では診療所数が不足しており、医療過疎化が進む課題も見られます。こうした二極化した医療環境は、大阪府を開業候補地として検討する際の重要な視点になる、とお考えいただければと思います。
人口の多い政令指定都市に目を向けると、大阪市内は、人口10万人対医師数が全国平均を大幅に上回る医師数を誇り、患者基盤が充実したエリアです。そのため、安定した集患が期待できる一方で、医療需要が飽和状態に近づいている地区もございます。一方で府内の堺市や地方部では、医療需要を満たし切れていないエリアがあり、地域に根ざした医療提供を行うことで大きなやりがいと安定した経営が期待できます。同じ政令指定都市でも、異なる戦略が求められると言えるでしょう。
また、大阪府全体で進む経営者の高齢化や後継者不足の課題は、医療機関の休廃業リスクを高めています。この現状を受け、府内の診療所ではM&Aによる第三者継承が積極的に活用されるようになっています。継承開業は、売り手にとっては医院の歴史を引き継ぎ、従業員の雇用を守る手段となる一方で、買い手にとってはスムーズな経営スタートが可能となる選択肢です。さらに、大阪府での開業において、将来的な譲渡を見据えた長期的な視野で経営計画を立てることも、安定した運営に繋がるでしょう。
このように大阪府での開業をお考えの方には、地域特性を考慮した戦略的な選択が求められます。都市部での安定経営や地方部での地域貢献といった目標を持ちながら、医療環境を充実させる一助となる医院継承や新規開業をぜひご検討ください。
※日本医師会提供の「地域医療情報システム」では、地域ごとの医療機関情報や統計データをご確認いただけます。数値は2020年国勢調査のデータを基にしており、最新情報に基づいて変更される場合がありますので、随時ご確認ください。