神奈川県の医院開業動向

●年齢別推計人口

神奈川県の年齢別人口推計（2020年～2050年）を見てみると、2020年時点では、0～14歳が11.8％、生産年齢人口にあたる15～64歳が62.7％、65歳以上の高齢者が25.6％を占めています。

他県と同様に少子高齢化の進行が見て取れ、生産年齢人口が年々減少する一方で、高齢者人口は着実に増加し、2050年には65歳以上の割合が35.0％に達する見込みです。特に2030年以降、高齢者人口の増加スピードが顕著となり、医療や福祉サービスの需要がさらに高まることが予測されます。

ただし高齢化が進む一方で、0～14歳の人口割合は比較的緩やかな減少に留まっており、若年層の一定数の維持が期待されます。これは、都市部の利便性と子育て環境の整備が進んでいることが要因と考えられます。

今後、神奈川県では生産年齢人口の減少と高齢者人口の増加による社会保障費の増大が課題となる一方で、地域医療や高齢者福祉分野での新たな需要が創出される可能性があります。こうした背景から、神奈川県では持続可能な医療・福祉インフラの整備や、働き手不足を補うための労働力確保、そして身近な医療を担う医療機関の充実が急務となっています。

厚生労働省：「令和５(2023)年医療施設（静態・動態）調査・病院報告の概況」によると、全国の病院数が8,122施設であることに対し、神奈川県の病院数は334施設（対全国4.11％）となっています。また全国の一般診療所数が104,894施設であることに対し、神奈川県の一般診療所数は7,150 施設（対全国6.82％）となっています。診療所数の過去10年の推移を見ると594件の増加となっており、以下の通り推移しています。

厚生労働省：「令和４年医師･歯科医師･薬剤師統計の概況」によると、全国で医療施設に従事する医師数が327,444名であることに対し、神奈川県で医療施設に従事する医師は20,588名（対全国6.29％、全国3位）となっており、神奈川県全体の医師数を10年前と比較すると2,239名増加しています。また人口10万人対医師数では223.0人となっており、2014年と比較すると21.3人増加しています。神奈川県の過去10年の医師数は、以下の通り推移しております。

また神奈川県には、横浜市、川崎市、相模原市の3つの政令指定都市があります。政令指定都市をみると、横浜市の医師数は8,773名（対全国2.68％・対神奈川県42.61％）、川崎市の医師数は3,675名（対全国1.12％・対神奈川県17.85％）、相模原市の医師数は1,708名（対全国5.22％・対神奈川県8.30％）です。

神奈川県の医療圏は横浜北部、横浜西部、横浜南部、川崎北部、川崎南部、横須賀・三浦、湘南東部、湘南西部、県央、相模原、県西の合計11の二次医療圏から成り立っています。

神奈川県の医療圏の大病院をあげると、病床数多い順に北里研究所北里大学病院、聖マリアンナ医科大学病院、東海大学医学部付属病院となります。

神奈川県の医療圏の特徴としては、以下が挙げられます。

①. 医療機関の多様性

神奈川県には様々な種類の医療機関が存在し、大学病院、公立・私立病院、特化した専門クリニックなどが充実しています。これにより、一般的な治療から特定の医療ニーズに対応する専門的な治療まで、市民が選択肢を持ってアクセスできます。

②. 先進医療技術の導入

神奈川県の医療機関では、最新の医療技術と設備が積極的に導入されています。これにより、ロボット手術や遺伝子治療など、最先端の治療が可能になっており、治療の質の向上に寄与しています。

③. 緊急医療体制の整備

神奈川県では、救急医療体制が整備されており、救急車の迅速な配備や救命救急センターの充実が図られています​​。

横浜市の特徴

政令指定都市であり、神奈川県の県庁所在地でもあるのが横浜市です。以下のような特徴があげられます。

①. 交通の利便性

横浜市は東京都心から約30分というアクセスの良さを誇ります。市内には横浜市営地下鉄が走り、主要鉄道会社の路線も多数交差しています。また、国際クルーズ船の寄港地としても知られ、港町としての役割を果たしています。さらに、市内には広範囲に渡るバス路線網があり、地域内移動の利便性を高めています。

②. 商業的な観点

横浜市は商業の中心地としても機能しており、特に横浜駅周辺には多くのビジネス施設が集中しています。ランドマークプラザやクイーンズスクエアなど大型商業施設があり、国内外から多くの観光客を引き寄せています。また、中小企業から大企業まで、多様なビジネスがこの地で展開されており、経済活動は非常に活発です。

③. 教育環境

横浜市には多数の教育機関があり、公立・私立問わず幅広い選択肢が提供されています。横浜国立大学や神奈川大学など、高等教育の機会も豊富にあります。市はまた、国際的な教育を提供する学校もあり、グローバルな視点からの学習が可能です。教育施設の充実が、将来の世代に良質な教育環境を提供しています。

横浜市の診療所数

厚生労働省の「令和５(2023)年医療施設（静態・動態）調査・病院報告の概況」から横浜市の診療所数を見ると、3,201施設となっています。これを人口10万人当りの診療所数に換算すると、84.9施設です。市 内の人口10万人対診療所医師数は233.8人で、神奈川県内にある全市の平均 74.8施設・223.0人を上回っていることから、神奈川県内でも診療所数・医師数の多いエリアということが見て取れます。

日本医師会の「地域医療情報システム」によると、横浜医療圏の診療所数は、1,253施設で、神奈川県内の他の医療圏と比べても多い施設数です。人口が多く商業も活発なエリアのため、医師が開業しやすい環境であるのがその理由でしょう。なお、診療所の標榜科目の中で、最も多いのが内科系の749施設、次に多いのが外科系（整形外科、脳外科など）の298施設です。逆に、最も少ないのは産婦人科系の76施設です。

横浜西医療圏の診療所数は、803施設で、神奈川県内の他の医療圏と比べても多い施設数です。人口が多く商業も活発なエリアのため、医師が開業しやすい環境であるのがその理由でしょう。なお、診療所の標榜科目の中で、最も多いのが内科系の480施設、次に多いのが外科系（整形外科、脳外科など）の226施設です。逆に、最も少ないのは耳鼻咽喉科系の47施設です。

横浜市の医師数と推移

厚生労働省：「令和４年医師･歯科医師･薬剤師統計の概況」によると、横浜市の医師数は8,773名、人口10万人対医師数は232.6名となっています。神奈川県全体の人口10万人対医師数223.0人と比較すると多いものの全国平均262.1人と比較すると少なく、全国比では開業医へのニーズは高い状態と言えます。

川崎市の特徴

①. 交通の利便性

川崎市は交通の要所として知られ、多くの重要な鉄道路線が市を通過しています。JR東日本の東海道線、横須賀線、南武線、京急電鉄の京急本線、東急電鉄の東急多摩川線などが市内を走っており、東京や横浜へのアクセスが容易です。また、首都高速道路や国道も市内を縦横に走っており、自動車での移動も便利です。

②. 商業的な観点

川崎市は多摩川の近くに広がる産業地域を有し、特に重工業で知られています。造船、化学工業、製紙業などが盛んです。また、川崎駅周辺や武蔵小杉などは商業の中心で、ショッピングモール、レストラン、オフィスビルが集まっており、活発な商業活動が行われています。

③. 教育環境

川崎市は独自の文化施設やイベントが多く、例えば川崎大師平間寺や日本民家園などが有名です。これらの施設は文化的価値だけでなく、観光スポットとしても人気があります。また、毎年4月には川崎大師で初詣の参拝者で賑わうことで知られる等持院桜が有名です。

川崎市の診療所数

厚生労働省の「令和５(2023)年医療施設（静態・動態）調査・病院報告の概況」によると、川崎市の診療所数は1,060施設です。これを人口10万人当りの診療所数に換算すると、68.6 施設で、神奈川県内にある全市の平均 77.5施設を上回っています。

日本医師会の「地域医療情報システム」から、川﨑北部医療圏の診療所数は、531施設で、神奈川県内の他の医療圏と比べても多い施設数です。人口が多く商業も活発なエリアのため、医師が開業しやすい環境であるのがその理由でしょう。なお、診療所の標榜科目の中で、最も多いのが内科系の319施設、次に多いのが外科系（整形外科、脳外科など）の127施設です。逆に、最も少ないのは産婦人科系の26施設です。

川崎市の医師数の推移

厚生労働省：「令和４年医師･歯科医師･薬剤師統計の概況」によると、川崎市の医師数は3,675名、人口10万人対医師数は238.5名となっています。

川崎市北部医療圏の人口10万人対医師数は、265.3人で、神奈川県内の平均223.0人と比較するとやや多く、全国平均262.1人から見てもやや多い状況です。

川崎市内の7区で見ると、医師数が多いのは川崎市中原区の902人で、次いで多いのが川崎市宮前区の894人です。川多摩区に関しては川崎市部医療圏の人口10万人対医師数388.8人以下で、やや医師が不足している傾向がみられます。そのため、川崎市内で開業する場合には、医師が不足している多摩区のニーズに応える、という考え方があります。

一方、川崎南部医療圏の診療所数は、481施設で、神奈川県内の他の医療圏と比べると少ない施設数です。なお、診療所の標榜科目の中で、最も多いのが内科系の303施設、次に多いのが外科系（整形外科、脳外科など）の125施設です。逆に、最も少ないのは産婦人科系の27施設です。

川崎市南部医療圏の人口10万人対医師数は、315.9人で、神奈川県内の人口10万人対医師数223.0人と比較すると多い人数と言え、全国平均262.1人から見ても多いため、開業医へのニーズはやや飽和状態と考えられます。

相模原市の特徴

①. 交通の利便性

相模原市は神奈川県の北部に位置し、東京都心からのアクセスが良好です。主要な交通手段としてJR横浜線が市の中心を縦断しており、相模原駅や橋本駅などが主な鉄道のハブです。さらに、圏央道や国道16号線などの主要道路も市を通っており、車での移動も便利です。

②. 商業的な観点

相模原市には多くの商業施設が集まっています。特に、橋本駅周辺には大型ショッピングモールや多数の店舗が立地しており、買い物や食事のスポットとして賑わっています。また、相模原駅周辺にも商業施設が充実しており、地域住民の生活拠点となっています。

③. 教育環境

相模原市は公立の小中学校が充実しており、市内各所に分布しています。また、高等学校や専門学校、さらには大学も複数設置されており、特に防衛医科大学校が有名です。これらの教育機関は地域教育の向上に寄与しており、学生に質の高い教育を提供しています。

相模原市の診療所数

厚生労働省の「令和５(2023)年医療施設（静態・動態）調査・病院報告の概況」によると、相模原市の診療所数は453施設です。これを人口10万人当りの診療所数に換算すると、62.5施設です。神奈川県内にある全市の平均 77.5施設上回っていることから、神奈川県内でも診療所数・医師数が多いエリアということがわかります。

日本医師会の「地域医療情報システム」も併せて利用すると、相模原市医療圏は神奈川県内の他の医療圏と比べ、施設数がやや少ない様子が見て取れます。なお、診療所の標榜科目の中で、最も多いのが内科系の263施設、次に多いのが外科系（整形外科、脳外科など）の104施設です。逆に、最も少ないのは耳鼻咽喉科系の21施設です。

相模原市の医師数の推移

相模原市エリアで最も医師数が多いのは相模原市南区の1,246人で、3区のうち最も多い人数です。次いで多いのが相模原市緑区の357人です。相模原市内での医師は充足傾向があり、神奈川県内で開業する場合には、医師が比較的不足している中央区、または緑区のいずれかで行った方が、ニーズが高いと言えるでしょう。

神奈川県は47都道府県の中でも面積が43位にもかかわらず、人口が全国2位という都市多き県と言えるでしょう。特に県庁所在地であり政令指定都市である横浜市は、日本全国市区町村別でも1位に入る人口を擁します。しかしその横浜市においても、エリアによっては診療所数でもまだ充足していると言える状態ではないことと、エリアによって医療の過疎化が進んでいる状況が見られます。

また同じく政令指定都市であり、日本全国市区町村別でも6位に入る人口を擁する川崎市、21位に入る人口を擁する相模原市においても、医療圏によっては診療所数でもまだ充足していると言える状態ではなく、エリアによって医療の過疎化が進んでいる状況です。開業をお考えの方には、横浜市、川崎市、相模原市の医療の充実を図るべく、ぜひ候補地に入れていただきたい地域です。

神奈川県でのクリニック新規開業に関連する最新の動向は、医療業界全体の課題と密接に関連しています。特に、経営者の高齢化や後継者不在の問題が深刻化しており、これにより医療機関の休廃業や解散が増加しています。後継者不在率は全業種中で3番目の高さに達し、特に小規模な診療所でこの問題が顕著になっています​​​​。加えて、医療業界では人材不足も深刻な問題です。特に、看護師の確保がクリニックの収益性維持に重要となっていますが、慢性的な人材不足に直面しています​​。これらの課題に対処するために、多くのクリニックではM&A（企業の合併や買収）を活用する動きが見られ、これが現在の医療業界の大きなトレンドとなっています​​​​。特に、M&Aは経営の安定化、従業員の雇用維持、売却利益の獲得など、売り手にとって複数のメリットをもたらす一方で、買い手にとっては人材や診療科目の拡充、病床数の拡大などのメリットがあります​​。

都市の多い神奈川県では、将来的にM&Aを視野に入れた経営計画を立てることも一つの戦略となり得ます。神奈川県で開業をお考えの方は、新規開業に加えて継承開業も視野に入れ、ぜひ理想の開業をかなえていただければと思います。