群馬県の医院開業動向
山々に囲まれた緑あふれる自然環境と、利便性高い都市機能が融合する群馬県。県庁所在地である前橋市を中心に医療資源が集まる一方、山間部では医療の偏在や過疎化が課題となっています。歴史と文化が息づく街並み、豊かな自然、そして安定した経済基盤が揃う群馬県では、さらに地域医療の充実が求められています。群馬県ならではの特性や開業動向について、データを交え解説いたします。
1.群馬県の基本情報と特徴
●年齢別推計人口
群馬県の年齢別人口推計(2020年~2050年)を見ると、人口構成において高齢化の進展と生産年齢人口の減少が大きな課題となっています。2020年時点では、0~14歳が11.7%、15~64歳が58.2%、65歳以上が30.2%を占めています。
今後、子ども年齢層は9.2%まで減少し、生産年齢人口は50.8%まで縮小。一方で、高齢者人口は40.0%に達し、県内の人口バランスは大きく変化する見込みです。
群馬県は豊かな自然環境や観光資源を持つ一方で、都市部と山間部で人口動態に差が見られます。前橋市や高崎市といった都市部では比較的若年層の人口維持が見込まれる一方、山間部では過疎化や高齢化が加速する可能性があります。このため、群馬県では地域ごとの特性を活かし、都市部の労働力維持と山間地域の生活環境改善という二つの軸で対策を進めることが重要とされています。
●面積
6,362.28㎢(全国第21位)〔2024年1月時点〕
●人口
1,913,000人(全国第19位)〔2022年10月時点〕
●県庁所在地
前橋市
●政令指定都市
なし
●県内の市町村数
12市15町8村(計35市町村)
●気候
北部が日本海側気候、吾妻郡と西部が中央高地式気候、南部平野部が太平洋側気候となっています。ケッペンの気候分類では、中南部地域の大部分が温暖湿潤気候、神流において温帯夏雨気候、みなかみ町藤原において西岸海洋性気候、草津と嬬恋村田代において亜寒帯湿潤気候の特徴がみられます。
●観光
日本三名泉に数えられている草津温泉や万葉集にもその名が登場している伊香保温泉、平安時代に開湯した四万温泉から成る上毛三名湯をはじめ、2014年に世界遺産登録・国宝指定された富岡製糸場、世界三大奇勝の一つに選ばれている鬼押し出し園などがあります。
●歴史
藤原京(694~710年)の時代、現在の県内に「車評(くるまのこおり)」と呼ばれていた地域があったとされており、これが奈良時代に入ってすぐの和銅6年(713年)諸国の風土記編集の勅令により、国名「上毛野国(かみつけのくに)」は「上野国(こうずけのくに)」に、郡名「車(くるま)郡」は「群馬(くるま)郡」に改められたとされています。明治4年の廃藩置県を受けて、高崎・前橋の大部分を含み大郡であった群馬郡を県名とすることがふさわしいと判断されたことで群馬県が成立しました。
●自然
県域東南部は関東平野、県域西部から北部にかけては浅間山を始め、谷川岳、赤城山・榛名山・妙義山の上毛三山などの関東山地・三国山脈などの山地が連なっています。県域には日本百名山に数えられる山が11座存在し、これは山梨県と並んで、長野県の29座に次ぐ数です。県域北部の標高の高い山岳地帯では豪雪地帯に指定されることが多く、また浅間山や草津白根山は活動度が高い活火山となっています。大水上山を水源とする利根川は、吾妻川・神流川・渡良瀬川など県内の諸河川を集め、東流して太平洋及び東京湾に注いでおり、分水嶺を挟んだ県域である信濃川流域の野反湖と阿賀野川流域の尾瀬の水は日本海へ注いでいます。
●産業
主要産業は1位:製造業、2位:サービス業、3位:不動産業であり、産業別就業者の割合は第一次産業が約5.1%、第二次産業が約31.8%、第三次産業が約63.1%となっています。名目県内総生産額は約8兆9,704億円です。
●特産
キャベツは全国集荷量1位を誇り、特に夏秋キャベツにおいては全国集荷量の51%を占めています。また、きゅうりにおいても全国有数の産地であり、甘楽郡下仁田町のネギとこんにゃくは全国的な知名度があります。農産物のほか、工芸品であるだるまは、全国生産の80%に匹敵する年間170万個が高崎市で生産されています。
2.群馬県の医療施設数と推移
厚生労働省の「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」によると、県内の病院数は127施設で、全国の8,122施設に対して1.56%を占めています。また、一般診療所数は1,563施設で、全国104,894施設のうち1.49%を占めています。診療所数の推移を見ると、一定の増加傾向はあるものの、過去10年間で大きな変化はなく、5件の増加にとどまっています。
3.群馬県の医師数と推移
医師の数は厚生労働省の「令和4年:医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、全国で医療施設に従事する医師数が327,444名であることに対し、群馬県で医療施設に従事する医師は4,465名(対全国1.36%、全国22位)となっています。群馬県全体の医師数を10年前と比較すると2,237名増加しています。また人口10万対医師数では、全国平均262.1人に対し群馬県では233.4人となっており、2014年の218.9人と比較すると14.5人増加しています。群馬県の過去10年の医師数は、以下のように推移しています。
4.群馬県の医療圏の特徴
群馬県の医療圏は前橋、渋川、伊勢崎、高崎・安中、藤岡、富岡、吾妻、沼田、桐生、太田・館林の合計10の二次医療圏から成り立っています。大病院では病床数多い順に群馬大学医学部附属病院、前橋赤十字病院、医療法人山崎会サンピエール病院となります。
群馬県の医療圏の特徴としては、以下が挙げられます。
①. 高齢化社会への対応
日本全国と同様に、群馬県でも人口の高齢化が進んでいます。このため、高齢者向けの医療サービスや介護サービスへのニーズが高まっています。
②. 地域医療連携
地域の医療機関間での連携が進められており、患者が必要とする多様な医療サービスを効率的に受けられるようになっています。
③. 在宅医療と介護の推進
高齢者や障害を持つ人々が自宅で安心して過ごせるよう、在宅医療や訪問看護、介護サービスの提供が強化されています。
5. 県庁所在地「前橋市」の医院・クリニック開業動向
前橋市の特徴
①. 交通の利便性
JR東日本の両毛線が通っており、北陸新幹線や上越新幹線、東北新幹線への乗り換えが可能な高崎駅へのアクセスが良好です。市内外への移動には、群馬バスなどの路線バスが充実しています。関越自動車道や北関東自動車道が近く、自動車でのアクセスも良好です。これにより、東京都心や他の関東地方の都市へのアクセスが容易になっています。
②. 商業的な観点
大型ショッピングモールや地元の商店街があります。市の中心部には、日用品からファッション、飲食店まで揃う複数の商業施設が集まっています。また農業も盛んであることから、特に野菜や果物などの地元産品の販売が活発で、地元の特産品を扱う直売所や市場も多く存在します。
③. 教育環境
公立および私立の幼稚園、小学校、中学校、高等学校があり、また多様な教育プログラムを持つ学校も存在します。高等教育機関では群馬大学が前橋市内にキャンパスを持ち、医学、工学、社会情報学、教育学など、幅広い分野の高等教育が提供されています。また、専門学校も複数存在し、専門的な知識や技術を学ぶ機会が豊富にあります。公共施設においては市立図書館をはじめ、市が主催する教育プログラムやイベントも充実しており、学校教育以外の学びの場として機能しています。
前橋市の診療所数
厚生労働省の「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」によると、前橋市の診療所数は340施設です。これを人口10万人当たりの診療所数に換算すると、99.5施設です。群馬県全体の平均82.2施設を上回っていることから、前橋市は群馬県内でも診療所数の多いエリアであることがわかります。
日本医師会の「地域医療情報システム」では、より詳細な診療圏に関する情報が集約されており、参考値としてご活用いただけます(最新の地域内医療機関情報の集計値※人口10万人あたりは、2020年国勢調査総人口で計算)。こちらのシステムでは2024年12月確認時点で、前橋市の診療所数は293施設で、群馬県内の他の市町村と比べても多い施設数です。人口が多く商業も活発なエリアのため、医師が開業しやすい環境であるのがその理由と考えられます。なお、診療所の標榜科目の中で、最も多いのが内科系の193施設、次に多いのが外科系(整形外科、脳外科など)の71施設です。逆に、最も少ないのは耳鼻咽喉科系の12施設となっています。
前橋市の医師数と推移
厚生労働省の「厚生労働省:「令和4年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、群馬県で医療施設に従事する医師数が4,465名であることに対し、前橋市で医療施設に従事する医師数は1,478名です。また人口10万人対医師数では、全国平均262.1人・群馬県233.4人に対し、前橋市は445.2人となっています。これにより、前橋市は県内のみならず、全国平均と比較しても医師数の多いエリアであることが分かります。開業医へのニーズは飽和傾向と言えます。
6.その他群馬県の開業動向まとめ
群馬県の面積は6,362.28㎢で、全国47都道府県中21位の広さを誇ります。また、県内で2位、全国の市区町村別では76位の人口を有する県庁所在地の前橋市は、医療資源が比較的充実しているエリアです。しかし、群馬県全体としてはエリアごとの医療資源の偏りや過疎化が課題となっており、医療の需要と供給には大きなギャップが存在するといえるでしょう。高齢化の進展に伴い、高齢者医療や在宅医療の強化が重要な課題となっていますので、高齢者が自宅や地域で安心して療養できる環境を整えるため、医療機関と介護サービスとの連携がますます求められています。
また、地域ごとの健康課題にも対応が必要です。生活習慣病や慢性疾患など、地域住民に特有の健康リスクに対処するため、専門的な医療サービスを提供するクリニックの需要が高まっています。さらに、予防医療の推進も大きな柱です。疾病の早期発見や健康増進に特化した医療サービスの提供が期待されており、健康寿命の延伸や医療費の適正化に寄与することが見込まれます。
これから開業を検討される方は、地域ごとの医療ニーズや人口動態、市場の動向をしっかりと把握し、計画を立てることが重要です。低コストの開業、また都市部の前橋市の医療資源を未来につなげるためにも、継承開業(M&A)は注目されています。既存の患者基盤や医療スタッフ、施設を引き継ぐことで、スムーズな開業が期待できるのです。群馬県での開業をお考えの方は、地域医療の充実という視点を大切にし、ぜひ前橋市やその周辺地域を候補地としてご検討ください。
※日本医師会提供の「地域医療情報システム」では、最新の地域ごとの医療機関情報や統計データをご確認いただけます。人口10万人あたりの数値は2020年国勢調査の総人口を基に計算されており、最新の情報に応じて数値が変動いたします。必要に応じて、随時ご参照ください。