STORY 02 未来へつなぐ医療 ~地域とともに歩む継承の物語~
第4章 変わりゆく医師たちの選択

博は都内の大学病院で勤務医として研鑽を積んでいた。妻の正美(40歳)、2人の子どもとともに都内で暮らし、近々准教授への昇進も決まっていた。

恵三から電話があった週の夜、子どもたちが寝静まった後、博は正美に相談を持ちかけた。「父が実家を建て替えるらしい。私に継いでほしいと考えているようだけど、どう思う?」正美は「あなたがやりたいと思うならいいと思うけど、大学はどうするの?」と返した。正美は博の性格をよく理解していた。コミュニケーションを得意としない博が、患者との関係作りが重要な開業医として成功するイメージが湧かなかった。実際、開業した同級生からは様々な苦労話を聞いていた。患者数が思うように増えない、採用したスタッフがすぐに退職してしまう、患者からのクレームへの対応など、開業医ならではの課題が山積していた。

1週間後、実家を訪れた博は恵三に胸の内を伝えた。「父さん、僕は大学に残って研究を続けたいと思っている。それに父さんのように開業医として患者さんと向き合っていくのは、自分には難しいと思う。」

博のように実家のクリニックを継がないケースは、近年増加傾向にある。その背景には、子世代の医師の多くが生活の利便性や子どもの教育環境を重視して都市部の医療機関に集中していることがある。また、かつては実家を継ぐことを意識し、自然と親と同じ専門を選ぶ医師が多かったが、最近では自分の興味のある専門分野を選択する医師が増えている。さらに、開業医の経営環境が厳しさを増すなか、安定した勤務医を選ぶ医師も増えている。開業医の高齢化が進む中で、こうした状況が継承の難しさにつながっている。

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