医療法人から一つの分院のみ譲渡(売却)したい ~事例紹介~

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こんにちは。医院継承・クリニックM&A支援のメディカルプラスです。今回は「医療法人から一つの分院のみ譲渡(売却)したい 場合」をテーマに、事例とともにコラムを展開してまいります。クリニックM&Aを検討中の方、情報収集をされている方のご参考になりますと誠に幸いです。
はじめに
医療法人が運営する複数のクリニックの中で、特定の分院を譲渡したいと考える場合があります。経営者にとって、分院の譲渡は単なる経営の再構築や負担軽減の手段に留まらず、戦略的な選択となることが多いです。しかし、事業譲渡のプロセスは簡単ではなく、適切な準備や条件設定、評価方法を理解しておくことが成功に導くかぎとなります。本記事では、分院譲渡の理由からスムーズに進めるための準備、譲渡価格の評価方法、さらには実際の事例を交え、医療法人が分院を譲渡する際に必要な情報をお伝えしてまいります。
なぜ医療法人が分院を事業譲渡する選択をするのか?その理由
医療法人が分院の譲渡を選ぶ理由は多岐にわたります。譲渡を選択する背景には、経営の見直しや事業の再編成が大きな要因となる場合が多いです。以下に代表的な理由を挙げます。
経営の負担軽減
複数の分院を運営している医療法人にとって、管理や業務の分散化が進む中で経営が難しくなるケースもあります。特に一つの分院が独立して機能するために、経営者が手間やリソースを割ききれない場合、分院の譲渡を決断することがあります。
経営不振や売上の低下
特定の分院が経営的に厳しく、赤字が続く場合、売却によって事業を清算し、負担を軽減するために譲渡することがあります。地域医療継続の観点から、分院を閉鎖するのではなく、事業譲渡することで、新経営者によるリフレッシュを期待する意図も含まれます。
スタッフの退職や人材の流出
経営において重要な役割を担っている管理医師やスタッフが退職する場合、その後の運営が難しくなることがあります。特に、院長の引退やスタッフの流出による経営の不安定化が進むと、事業譲渡や閉院という選択をしなければならない状況になります。
分院の譲渡スキーム
事業譲渡では、医療法人が保有する特定の分院の事業のみを譲渡する形となります。この方法では、譲渡する分院の運営権、資産、スタッフなどをそのまま移譲することができます。一般的にはリース機材など当事者で承諾した負債を除き、債務は継承されませんので、譲渡対価をもって負債を清算していただくことになります。
事業譲渡を円滑に進めるための事前準備
医療法譲渡は、医療業界特有の規制や事情も影響するため円滑に事業譲渡を進めるには、事前準備が必要です。
経営の仕組み化
分院の経営が属人化している場合、譲渡後に経営がスムーズにいかなくなるリスクがあります。特に譲渡側の医療法人の理事長に依存しすぎている経営体制では、譲渡後の経営に不安定さを招くため、経営体制を仕組み化しておくことが重要です。
スタッフの安定性確保
医療法人内のスタッフの退職や流出は大きな問題です。スタッフがそのまま残留し、譲渡後の業務が安定するように雇用条件の見直しや移行プランを用意しておくことが求められます。また、仮にスタッフが退職しても業務に支障がでないよう、各業務においてもマニュアルを作成しておくことで、ノウハウを継承することができますので、安定いたします。
事業単独の収益力の改善
譲渡前に対象事業の収益構造を見直しておくことが重要です。譲渡価格を決定する上で、健全な収益状態が維持されていることは、譲受側の信頼を得るために不可欠です。
譲受側が譲渡案件に期待するポイントと求める条件
では、譲受側が譲渡案件に期待するポイント、および求める条件について記載いたします。
優れた経営基盤
譲受側は、譲渡された事業がすでに安定した経営基盤を持っていることを望みます。これには、業務がマニュアル化されていることや、過去の収益データに基づく安定した利益が見込めることが含まれます。事業が仕組み化されており、理事長など継承時に残留しない特定の人物に依存することなく円滑に運営できる状態が理想です。
医師およびスタッフの残留
医療法人の場合、医師やスタッフが事業譲渡後も残留してくれるかどうかは非常に重要です。医師やスタッフの退職リスクが高いと、譲渡後に経営が不安定になる恐れがあります。譲渡側は、事前に確認することが可能なのであれば、医師やスタッフの意向や残留意向を事前に確認し、その条件をしっかりと取り決めておくことで商談を円滑に進めることもできます。一方で、退職の呼び水ともなりえますので、現在のご状況でご判断ください。
譲渡価格の評価ポイント(高評価となるポイント・低評価となる要素)
では、譲渡価格が高く評価される要素について見ていきましょう。譲渡価格は、譲渡対象となる分院の評価に基づきます。高く評価される要素には次のようなものがあります。
安定した売上と利益
売上が安定しており、利益が着実に上がっている分院は、譲渡価格が高く評価されます。特に、来院数が多く、地域密着型の顧客基盤を持っている分院は、安定した収益が見込まれるため、譲渡価格が高くなる傾向があります。
事業の仕組み化
事業が属人化しておらず、運営が仕組み化されている場合、譲受側にとっては継承後のリスクが低く、事業の移行がスムーズに進みます。このため、仕組み化された事業は高く評価されます。
医師・スタッフの残留意向
譲渡対象となる分院に勤務している医師やスタッフが譲渡後も残る意思を示している場合、譲受側は管理医師の採用コストがかからず、継承後も運営が安定しやすくなるため、譲渡価格が高く評価されます。
一方、譲渡価格が低く評価される要素には以下のものがあります。
経営の不安定さ
経営が不安定で、売上が低迷している場合、譲渡価格は低く評価されます。また、経営者が特定の人物に依存している場合も、継承後のリスクが高く評価され、価格が低くなる傾向があります。
スタッフの流出リスク
スタッフが退職する可能性が高い場合、その後の経営に支障をきたすリスクが増大するため、譲渡価格は低くなることがあります。特に、売上に高く貢献されている雇われ院長が退職する場合は、後任の医師を確保することが難しくなるため、注意が必要です。
事例紹介
ではここで、事例をご紹介いたします。メディカルプラスで実際にあった事例となりますので、ご参考ください。
①. 新院長の雇用と分院展開における苦労と成長
ある医療法人の理事長は、本院の売上や経営が落ち着き始めたので、継承による分院展開を試みることに決めました。売主の院長先生は勇退されるため継承開業に伴い、人材紹介業を通じて新院長を迎え入れました。しかし、この新たなチャレンジには予期しない困難が待ち受けていました。
②. 初期のトラブルとその対策
新院長が就任し継承開業したあと、患者接遇や職員へのパワハラ問題、診療予約枠の制限など、さまざまなトラブルが発生しました。これにより院内の雰囲気は悪化いたしました。事務長は雇われ院長の影響で退職してしまい、理事長は一手にこれらの問題に対応しなければなりませんでした。最終的に、雇われ院長には退職をしてもらい、すぐに新しい院長を迎えることになり、なんとか事態を乗り越えました。
➂. 新しい体制と経営の改善
新院長が就任した後、診療の制限が緩和されると、外来数は増加し、売上も順調に回復しました。しかし、新院長だけでは診療枠数を埋めることができず、本院の経営や臨床と並行して分院の経営管理を行っており、体力的にも精神的にも限界を感じていました。そのため、理事長はクリニック譲渡の検討を始めました。
④. 譲渡の準備と金融機関の協力
譲渡を検討する中で、理事長は新たな買い手候補を探し始めました。すぐに多くの医療法人が興味を示し、譲渡を希望する者が集まりました。譲渡を進める上で、各医療法人は直近の売上の推移や、現管理医師の継続勤務の可否、そして事業の内容に基づく資金調達の可能性に関して懸念を抱えていました。理事長は、譲渡価格を若干減額すること、譲渡後に一定期間、売主の理事長先生が継続勤務することで現管理医師の継続勤務を保証しました。この条件により、買手側も安心して継承するという意志決定ができ無事に譲渡契約が締結されました。
➄. その後の成長と今後の展望
譲渡後、事業は順調に成長を続けています。新しい経営者は、理事長が築いた基盤をしっかりと引き継ぎ、更なる発展に向けて進んでいます。特に、外来数や売上が増加し、安定した経営が実現しています。
いかがでしたでしょうか。事業譲渡は、売り手と買い手双方にとって大きな転換点です。譲渡後の継続的な成長を見据えた準備を整えることで、成功へとつながります。円滑に事業を引き継ぐためには、透明なコミュニケーションと柔軟な対応が欠かせません。慎重に計画を立て、譲渡に向けた全体像を見据えた準備を進めることが、最終的に成功を収めるための最良の方法であることがお分かりいただけますと、幸いです。
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