個人版事業承継税制とは ~個人経営のクリニックが検討したい税優遇措置~

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医院継承(承継)、クリニック売買、医療法人M&Aのメディカルプラスです。本記事では「個人版事業承継税制」についてご紹介いたします。個人版事業承継税制は、個人事業主が後継者に円滑に事業を引き継ぐことを目的に、2019年1月1日以降の贈与・相続から適用される税制優遇制度です。そもそも開業医における優遇税制はどのような制度があるのか触れながら、個人版事業承継税制についてご紹介いたします。ぜひご一読ください。

開業医(個人事業主)における優遇税制とは

クリニック開業に伴い、医師としてのスキルに加え、経営者としての知識が必要であると実感される方々は多いのではないでしょうか。クリニックを運営する中で、経営者として「税金の負担を少しでも軽くしたい」と考えるのは自然なことです。本項では個人事業主である開業医の優遇税制について代表的なものをご紹介いたします。

なお、開業医における節税については下記記事でご紹介しておりますのでぜひご覧ください。

開業医が知るべき節税対策の必須ポイント ~節税で経営を安定化~

青色申告特別控除

青色申告を行う個人事業主が適用できる所得控除の一つで、最大65万円または55万円、10万円の控除を受けることができます。クリニックを個人事業として経営している場合、この制度を活用することで所得税の負担を軽減できます。

60万円控除 以下のすべてを満たす場合
① 複式簿記で帳簿を作成
② 確定申告をe-Taxで提出する or 事業所得に関する電子帳簿保存を行う
③ 事業所得または不動産所得がある
55万円控除 上記の②(e-Taxまたは電子帳簿保存)を満たさない場合
10万円控除 簡易簿記で帳簿をつけている場合

※ 法人化した場合は対象外(個人事業主のみ適用)

社会保険診療報酬の所得計算の特例(措置法26条)

租税特別措置法第26条は、医業または歯科医業を営む個人事業主が、社会保険診療報酬に関して所得計算を行う際、実際の経費ではなく概算経費を必要経費として算入できる特例を定めています。 適用要件は「社会保険診療報酬の金額が5,000万円以下であること」「医業または歯科医業から生じる事業所得の総収入金額が7,000万円以下であること」となります。これらの要件を満たす場合、以下の表に基づいて概算経費を計算します。この特例を利用することで、実際の経費が少ない場合でも、概算経費率に基づいて一定の経費を計上できるため、所得金額を抑え、結果的に所得税を軽減することができます。

社会保険診療報酬の金額 概算経費率
2,500万円以下 72%
2,500万円超~3,000万円以下 70% + 50万円
3,000万円超~4,000万円以下 62% + 290万円
4,000万円超~5,000万円以下 57% + 490万円

例えば、社会保険診療報酬が4,500万円の場合、概算経費は以下のように計算されます。

4,500万円 × 57% + 490万円 = 3,055万円

したがって所得金額は以下のようになります。

4,500万円 – 3,055万円 = 1,445万円

注意する点としては自由診療収入がある場合、実際の経費と概算経費のどちらが有利かを検討する必要があります。

小規模企業共済の活用

小規模企業共済制度は、中小企業基盤整備機構が運営する、小規模企業の経営者や役員、個人事業主向けの退職金制度です。最大の特長は税制優遇で、毎月の掛金(1,000円~7万円)を500円単位で自由に設定でき、加入後も増額・減額が可能です。掛金は全額所得控除の対象となり、確定申告時に課税対象所得から控除できるため、高い節税効果があります。例えば、年間最大84万円を積み立てることで、所得税や住民税の負担を軽減できます。また、廃業や引退時には共済金として受け取ることができ、退職金の代わりとして活用可能です。受取方法は、一括・分割・併用から選べ、一括受取りの場合は退職所得扱いに、分割受取りの場合は公的年金等の雑所得扱いとなり、税制メリットもあります。さらに、契約者は掛金の範囲内で事業資金の貸付制度を利用でき、低金利での資金調達が可能です。即日貸付けにも対応しており、急な資金ニーズにも対応できるのが特徴です。

※個人開業医が加入するためには、常時使用する従業員数が5人以下であることが条件です。この「5人」には、家族従業員やパートタイムスタッフは含まれません。

http://【参考】中小機構:「共済制度とは」 https://www.smrj.go.jp/kyosai/skyosai/

いかがでしたでしょうか。医師の優遇税制と一口にいっても運営状況に応じて活用できる制度やメリット・デメリットを検討しなければなりません。続いて、本日のテーマとなる「個人版事業承継税制」についてご紹介いたします。

個人版事業承継税制とは

2-1.制度の概要

個人版事業承継税制は、2019年度の税制改正によって創設された、個人事業主の事業承継を支援するための制度です。後継者が、贈与や相続等により取得した事業用資産に係る贈与税・相続税の納税を猶予・免除する制度であり、後継者の負担を軽減し、事業承継を円滑に進めることを目的としています。「相続」、「贈与」という用語でお気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、当制度の適応対象となる後継者とは「親族または一定の関係者」であり、基本的には親族間継承を検討されている方々が適応となる制度となります。
※個人版と法人版では制度の要件に違いがございますのでご注意ください。

個人版次号承継税制と法人版(特例措置)の比較 メディカルプラス

*出典:中小企業庁-経営承継円滑化法【個⼈版事業承継税制の前提となる経営承継円滑化法の認定申請マニュアル】令和6年4⽉改訂版 P5より抜粋

従来、中小企業向けには法人版の事業承継税制が存在していましたが、個人事業者には類似の税制がありませんでした。これにより、個人事業者が事業承継を行う際、相続税や贈与税の負担が重く、事業の継続が困難になるケースが多発していた背景を受け「個人事業者に対する支援が必要」という考えから、政府は2019年に「個人版事業承継税制」を創設しました。

個⼈版事業承継税制は、後継者である受贈者⼜は相続⼈等が、事業⽤の宅地等、建物、減価償却資産(以下「特定事業⽤資産」という。)を贈与⼜は相続等により取得し、 経営承継円滑化法の認定を受けた場合には、その特定事業⽤資産に係る贈与税・相続税について、⼀定の要件のもと納税を猶予し、後継者の死亡等により、猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度です。この納税猶予制度は、経営承継円滑化法第12条第1項の認定を受けた個⼈である 中⼩企業者を対象としており、その認定要件は、経営承継円滑化法施⾏規則において定められています。

2-2.対象事業および認定要件

個人版事業承継税制の対象事業には要件があり、制度を利用するためには事業主・後継者・事業用資産のそれぞれに関して、厳格な認定要件を満たす必要があります。本項にて対象となる事業の条件をご紹介いたします。

【中小企業・事業者要件】
●中小企業基本法に定める中小企業者であること
●業種別の資本金または従業員数の基準を満たすこと

【事業要件】
●青色申告を行っている事業者であること
●上場会社でないこと
●風俗営業、資産管理事業を除く事業者であること

【事業の継続性】
●事業を継続する明確な意思と計画があること
●後継者が事業を引き継ぐことが確定していること
●贈与前3年以上、事業に従事していること

これらの条件を全て満たす事業者が、個人版事業承継税制の対象となります。前述した通り、個人版事業承継税制を利用するためには、事業者や後継者、対象資産に関する認定要件を満たす必要があります。また、手続きには、都道府県への申請や税務署への届出など、計画的な準備が必要です。各要件について詳細をご希望の方は下記資料をご覧ください。

*参考:国税庁 個人の事業用資産についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(個人版事業承継税制)のあらまし https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0021005-083_03.pdf

個人版事業承継税制:まとめ

いかがでしたでしょうか。医師の税制優遇措置と一口にいっても様々な制度、検討すべき条件が数多くあることがお分かりいただけたかと思います。本記事が現在開業されている、または、これから開業を検討されている勤務医の方々が「税金」について考えるきっかけとなりましたら幸いです。

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