いわゆる「広域医療法人」と医療法人M&Aについて
医院継承(承継)、クリニック売買、医療法人M&Aのメディカルプラスです。本記事ではいわゆる「広域医療法人」に関する定款変更等の行政手続きについてご説明したいと思います。医療法人が分院を開設する際には、所管の都道府県もしくは政令指定都市に定款変更の申請を行う必要があります。既にクリニックを開設している都道府県とは異なる都道府県に分院を開設する場合、「うちの医療法人は広域医療法人の認可を受けていないから、広域医療法人にするのは大変だよね?」というご相談をいただきます。
結論から申し上げると、そんなことはありません。本記事では広域医療法人の説明から行政手続き、分院展開まで、分かりやすくご説明いたします。本記事がクリニックM&Aを検討されている方にお役に立てましたら幸いです。
広域医療法人とは?
そもそも広域医療法人とはどのような類型の医療法人なのでしょうか。
広域医療法人とは、医療法において明確に定義されているわけではなく、以前の行政上の手続きの関係上使われていた俗称です。複数の病院、診療所を運営している医療法人でかつ運営している病院や診療所が2つ以上の都道府県をまたいでいる医療法人のことを指しています。
平成27年3月31日以前は、医療法において、開設する病院・診療所が2つ以上の都道府県をまたぐ場合、その医療法人の監督所管は都道府県から厚生労働省へ移管される旨定められていたため、医療関係者の間では俗称として広域医療法人と呼ばれてきました。確かに監督所管が都道府県から国へ移管されると聞くと、手続きが煩雑で大変そうな印象を持ってしまいます。
しかし、実際の行政手続きにおいて、平成27年4月1日「地域の自主性及び自立性を高めるための改革を図るための関係法律の整備に関する法律」(平成26年法律第51号)の施行により、2つ以上の都道府県をまたぐ医療法人の監督等に係る事務・権限については厚生労働省から主たる事務所が所在する都道府県知事へ移譲されました。これによって同じ都道府県内で分院を開設する場合も、2つ以上の都道府県をまたいで開設する場合も行政手続きが大きく変わることはなくなりました。
*参照:厚生労働省HP中段(3.厚生労働大臣所管の医療法人の設立認可、届出等の手続について http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/igyou/
*参照:内閣府HP(令和6年6月12日成立、令和6年6月19日公布「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」(令和6年法律第53号)(第14次地方分権一括法) https://www.cao.go.jp/bunken-suishin/kakugiketteitou/kakugiketteitou-index.html
広域医療法人の手続きとは
前述の通り、平成27年4月1日以降、同じ都道府県内で分院を開設する場合も2つ以上の都道府県をまたいで開設する場合も行政手続きに大きな違いはなくなりました。そのため、広域医療法人化に際して特に手続き期間の制限は無く、そもそも“広域医療法人”は医療法において明確に定義されているわけでは無いため、広域医療法人になるための特別な認可やその手続きというものはありません。つまり、医療法人としての通常の分院開設の手続きを進めることとなります。
医療法人としての通常の分院開設の手続きをおおまかに説明いたしますと、下記のようになります。
●事前相談:開設スケジュール(見込み)、平面図、賃貸借契約書、提出書類等を相談
↓
●開設許可申請書提出
↓
●書類審査・実査:保健所の担当者による実地調査
↓
●開設許可書交付:開設許可申請書の副本は、許可書交付時に一緒に交付される
↓
●開設届:開設後10日以内に届出
↓
●厚生局への保険医療機関指定申請等の手続き
↓
●その他の所管官庁への各種届出、申請の手続き
医療法人の手続きについては、こちらの記事もご参考ください。
分院展開の1つの方法として第三者継承をご検討ください
本拠点から都道府県を跨いだ分院展開をご検討中の先生方は、医療法人の新規設立やクリニックの新規開業でご検討されている先生が多いようにお見受けしております。このような時、是非第三者継承も選択肢の1つとしてご検討ください。第三者継承を用いた広域医療法人化には、①現在自身で運営している個人クリニックとは異なる都道府県にある医療法人付のクリニックを継承して自院のクリニックも法人化する方法と、②現在自身で運営している医療法人の本拠点とは異なる都道府県にあるクリニック単体を継承する方法の2つが考えられます。
まず、①現在自身で運営している個人クリニックとは異なる都道府県にある医療法人付のクリニックを継承して自院のクリニックも法人化する方法は、一般的な医療法人の継承スキームである出資持分譲渡あるいは基金譲渡で進めることが可能です。
出資持分譲渡とは、平成19年3月31日以前に設立された「出資持分あり医療法人」(いわゆる旧法人)にのみ適用されている、医療法人の設立時に出資した資金に基づく財産権である出資持分を譲渡するスキームです。
基金譲渡とは、平成19年4月1日以降に設立された「基金拠出型医療法人」(いわゆる新法人)において、基金の拠出者の地位もしくは基金の返還請求権を譲渡するスキームです。
この際の注意点としては、従業員や医療機器などの資産の他、負債も含めて包括継承であることです。
出資持分譲渡については、こちらをの記事をご参考ください。
次に、②現在自身で運営している医療法人の本拠点とは異なる都道府県にあるクリニック単体を継承する方法は、事業譲渡で進めることが可能です。
事業譲渡とは、個人経営のクリニックや医療法人が運営する複数のクリニックから特定のクリニック単体を譲渡するスキームです。この際の注意点としては、売手と買手で経営に必要な資産の取捨選択を行うことが出来るため、クリニック自体に紐づいている事業運営に必要な資産のみが引き継がれ、借入金などの負債は引き継がれません。事業譲渡については、こちらの記事をご参考ください。
現在も以前の名残りから複数の都道府県で施設を開設運営する医療法人の俗称として広域医療法人という言葉を耳にする機会は多いように感じられます。しかし、ここまでご説明したように、同じ都道府県内で分院を開設する場合も2つ以上の都道府県をまたいで開設する場合も実際の行政手続きに大きな違いがなくなったため、今後徐々に使われなくなる可能性が高いでしょう。
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