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医院継承(承継)、クリニック売買、医療法人M&Aのメディカルプラスです。本日はクリニックM&Aにおける退職金についてお伝えいたします。この記事は、クリニックM&Aによるクリニック譲渡をお考えの方を対象とし、旧法の医療法人(持分あり医療法人)と新法の医療法人(持分なし医療法人)とに分けて解説いたします。
医療法人譲渡対価の額
まず、医療法人のクリニックM&Aの場合は、包括継承を前提とするため、継承前の医療法人が保有している資産や負債をすべて引き継ぐことになります。
資産とは現金・預金や建物など、医療法人のもつ財産すべてを指し、負債は、借入金や未払いの費用などを指し、医療法人が将来支払うべき義務を意味します。この資産から負債を引いた残りの部分が純資産となり、純資産は譲渡金額のベースとなります。医療法人M&Aでは、これらの要素を総合的に評価することで、医療法人の価値を算定し、取引価額や取引条件を決定していきます。
医療法人の譲渡対価の設定方法
さて、一般的に企業価値の算出方法の考え方として知られているものとして、「①.インカムアプローチ」、「②.マーケットアプローチ」、「③.コストアプローチ」の3つがありますが、医療法人の算出方法においては「③.コストアプローチ」が採用されることがほとんどです。
コストアプローチは、上述の資産、負債に着目して評価する方法であり代表的なものとして「時価純資産法」があります。時価に修正した資産から負債を引いた純資産を価値として評価するため、客観性がある評価方法と言えます。しかし、後継者となる買手側から見ると、純資産は過去の利益の蓄積を示しているにすぎず、将来の価値が反映していないという欠点もあります。そこで、のれん代(営業権)を個別に評価、加味することで医療法人の将来の価値を算定し、譲渡対価の額を決定していきます。つまり、「資産-負債(純資産)+のれん代」が譲渡価格となるイメージです。
譲渡対価を退職金で受け取るという選択肢
譲渡価格は先述のような手続きを経て算定されます。従いまして、将来性が高く、経営が順調にいっている医療法人ほど、高い譲渡価格として評価されます。そうすると当然の譲渡側の心理や意向としては、なるべく高く譲渡したいと考える事になるでしょう。しかし、いくら将来性がある医療法人であったとしても、あまりにも譲渡価格が高ければ、なかなか買手となる継承候補者が付きづらく、M&Aそのものが成立しづらくなる傾向があります。この様な場合には、戦略的に譲渡価格を抑えることが有効です。
出資持分あり医療法人(旧法の医療法人)
対策方法の一つとして、譲渡対価を退職金として受け取るという選択肢が挙げられます。旧医療法人の純資産は、出資持分と利益剰余金で構成されておりますが、過年度よりプールしてきた利益剰余金から退職金を支払うことで、出資持分の評価を下げて、結果として譲渡価格が抑えられることに繋がります。
出資持分なし医療法人(新法の医療法人)
医療法人の退職金支払いスキームという点では旧法人と同様です。持分なし医療法人では医療法人の一類型として基金制度を採用している「基金拠出型医療法人」があります。持分なし医療法人は、そもそも譲渡できる持分そのものはなく、基金の返還請求権(拠出額の返還を受ける義務)があれば、それを譲渡することで対価を受け取る事ができます。それ以外のM&Aの譲渡対価の支払いについては、法人内で定めた役員退職金が用いられることが一般的です。
退職金として受け取るか、譲渡対価として受け取るか
M&Aによって退職金や譲渡対価を得ることは、いわゆる創業者利益の獲得と言えます。退職金や譲渡対価など、譲渡方法(スキーム)によって得る金額が異なると、課税される税金も異なってきます。つまり退職金と出資持分譲渡による譲渡対価を得ることでは所得区分が異なるため、手取りに違いがでることに留意が必要です。
出資持分あり医療法人の場合
ここでは出資持分あり医療法人のスキームに触れさせていただきます。持分あり医療法人のM&Aにおいて最も活用されているスキームは出資持分譲渡です。出資持分譲渡は、売主が買手へ出資持分(財産権)を譲渡し、売主が対価を得る方法です。個人の出資者である売主が出資持分を譲渡した場合は、「一般株式等に係る譲渡所得等の金額」に該当し、他の所得の金額と区分して税金を計算する「申告分離課税」扱いとなります(一般株式等に係る譲渡所得等(譲渡益)の税率は20%(所得税15%、住民税5%)となります)。
次に、退職金として受け取った場合にも同様に税務上の確認が必要になってきます。税金がかかると言ってもこの退職金は、長年の勤労に対する報償的給与として一時に支払われるという性格を持っているため、退職所得控除が設けられ、他の所得と分離して課税されるといった税負担が軽くなるような配慮がなされております(ここでは詳細の税率計算は割愛させていただきますが、退職金-退職所得控除額×1/2=課税退職所得金額となり、ここに所得税(5~45%)と住民税(10%)がかかります)。
最後に
以上、税務上の観点から手取り額に違いがでることについて概要を解説させていただきました。M&Aを実行していくうえで、売り手目線(手元に残る金額)に注視しすぎるとなかなか買手が付かない可能性が考えられ、結果としてクリニックM&Aという取引に対して影響が出てしまいます。クリニックM&Aに関して退職金スキームを取り入れることで、その分譲渡価格が抑えられ、買い手側の負担を軽減させることができます。それによりクリニックM&Aが取引として成立する機会は増えるといえるでしょう。
《参考》
*国税庁「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1463.htm
*国税庁「退職金と税」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/02_3.htm
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