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医療法人の合併と分割の仕組みについて

  • 医療継承コラム

こんにちは。医院継承(承継)、クリニック売買、医療法人M&Aのメディカルプラスです。今回の記事では「医療法人の合併と分割の仕組み」についてお伝えいたします。
すでに医療法人を経営している方の中には、売手側として法人内部にある複数の事業を譲渡する際に、事業譲渡と分割譲渡でお悩みの方もいらっしゃるかと思います。また、買手側として継承先をお探しの際、合併も選択肢の1つとしてご検討されている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
直近でも弊社宛に「医療法人の合併と分割」についてご質問をいただく機会がございましたので、あらためて解説して参ります。本記事がクリニックM&Aを検討されている方のお役に立てましたら、幸いです。

平成28年9月に可能となった「医療法人の分割」

まず、「医療法人の分割」についてご説明いたします。医療法において医療法人の合併は認められていましたが分割は認められておらず、平成27年の医療法改正(平成27年9月28日公布、平成28年9月1日施行)により、会社法の会社分割と同様のスキームが医療法人にも認められることになりました(ただし、特定医療法人、社会医療法人、出資持分あり医療法人は分割が認められておりませんのでご注意ください)。

*参考資料:厚生労働省 通知 医政発0325第5号 平成28年3月25日公布
*参考資料:医療法人の合併分割に関する根拠法 医療法第57条~62条

従前の医療法人では、法人内部にある事業の譲渡を検討する際は、病院やクリニック単体を法人から切り離して譲渡する事業譲渡のみ可能でした。事業譲渡の場合、病院やクリニック等の譲渡対象事業の廃止手続き・新規開設許可や、債権者の個別承諾など、煩雑な手続きが必要になります。これに対して医療法人でも分割が可能になったことにより、権利義務の包括的な承継が可能となる法人分割も選択できるようになりました。
ここで、事業譲渡と法人分割の違いについて比較してみましょう。

事業譲渡と法人分割の比較

なお、医療法人の分割方法には、「①.新設分割」「②.吸収分割」の2種類があります。これらの違いは、譲渡を予定している病院やクリニック事業単体に関する権利義務の承継先にあります。「①.新設分割」の場合ですと、新しく設立する医療法人に承継させることになり、「②.吸収分割」の場合は、既存の他の医療法人に承継させることとなります。この2つについて図で説明すると、以下のようになります。

医療法人新設分割と吸収分割

単独医療法人の新設分割は適格分割に該当しない

医療法人分割をご検討の際の注意点は、単独医療法人の新設分割は適格分割に該当しないという点です。医療法上は単独医療法人の新設分割が可能ですが、組織再編税制にかかる適格分割には該当しません。適格要件を満たすと適格分割となり、分割法人は移転する資産に係る法人税が課税繰延べされ、分割承継法人は不動産取得税が非課税となります。

単独医療法人の新設分割は適格分割に該当しない

*参考資料:財務省「組織再編税制の概要」

クリニックの「事業譲渡」とは? ~その譲渡価格算出方法もご説明!~

医療法人の合併

次に医療法人の合併についてお伝えします。医療法人合併のスキームは、2つ以上の法人を1つの法人に統合することにより行われます。合併方法には「①.新設合併」と「②.吸収合併」の2種類があり、原則は「②.吸収合併」となります。合併を進めていく際には、医療審議会で行われる審議で承認を得る必要あります。医療審議会とは、医療法の規定に基づき医療計画や医療法人の設立及び解散等、その権限に属させられた事項を調査審議するほか、知事の諮問に応じ、病院の開設及び増床等医療を提供する体制の確保に関する重要事項を調査審議するため設置されています。都道府県ごとに年に2回行われる都道府県もあれば、年に4回行われる都道府県もあります。そのため、対象管轄の医療審議会の次回開催日程や、書類の提出期限等を行政に事前相談・確認することをおすすめいたします。一般的な合併のポイントを見てみましょう。

【ポイント】
1. 間接コストの合理化期待
2. 病床移動が可能(同医療圏の場合)
3. 人材配置が流動的に行える
4. 組織文化の統合が困難
5. リスクの集中化

20231221_医療法人の合併と分割の仕組みについて(column738)_図解4

「2. 病床移動が可能」とは、例えば同医療圏にある医療法人Aが200床、医療法人Bが150床あり、医療法人Bが医療法人Aに吸収合併された場合、医療法人Bの病床のうち50床を医療法人Aに移動させることが出来ます。
また合併の際、吸収された側の医療法人の取引先や、医師・看護師などのスタッフとの雇用関係を継続できます。一方で、吸収した側は吸収された側の負債も引き継がなければならないことから「5. リスクの集中化」が起こりますので、合併を検討する際はまずリスク度合いを確認することが必要でしょう。

年々増加する医療法人の合併

医療法人の分割とは異なり、医療法人の合併は以前より認められていたことは既にお伝えした通りですが、医療法人の合併件数の推移は年々増加しています。医療法人の合併が進むと共通部門の効率化、購買力の向上、事業シナジー、信用力の向上などのメリットをえることができます。
平成31年3月、厚生労働省が、団塊ジュニア世代が40代となる2040年を見据え未来投資会議を開催し、「社会福祉法人及び医療法人の経営の大規模化・協働化等の推進について」というテーマにおいて、「①. 雇用・年金制度改革等」「②. 健康寿命延伸プラン」「③. 医療・福祉サービス改革プラン」という3つの改革プランが示されました。このうち「③.医療・福祉サービス改革プラン」において、「医療法人の経営の大規模化・協働化」として、経営統合、運営共同化、多角化方策の検討などが織り込まれました。
同会議の資料に「医療法人の合併の現状」として、下記内容が記載されています。


●医療法人の統合再編成は、医療法人の経営が財務的に逼迫したための救済的な統合、後継者がいない医療法人の事業承継のための合併などを背景として、医療法人の合併や事業譲渡、M&Aは、一定程度進んでいる。
医療法人の合併には、都道府県知事の認可が必要となるが、その際、あらかじめ都道府県医療審議会に意見を聴かなければならないと、医療法に規定されている。(医療法第58条の2)
● 医療法人の合併は、従来、社団医療法人相互間、及び財団医療法人相互間においてのみ実施可能であったが、平成26年の医療法改正により、社団医療法人と財団医療法人との間での合併を可能とする措置を講じた。
● 平成28年3月25日付け「医療法人の合併及び分割について」通知において、医療法人の合併及び分割手続きの迅速化の観点から、必要に応じ、部会の開催を随時行う等、さらに実態に応じた適切な運営を周知している。


今後厚生労働省が医療法人の合併を推進し、医療法人の合併、大規模化は益々増えていくものと思われます。

*参考資料:厚生労働省「社会福祉法人及び医療法人の 経営の大規模化・協働化等の推進について」

分割や合併の際に忘れてはいけない手続き

医療法人の分割や合併を進めていく上で忘れてはいけない手続きがあります。それは「債権者保護手続き」です。
債権者保護手続きとは、債権者の利益を保護する目的のために債務者が債権者に異議を唱える機会を与え、意義を申し立てた債権者には、弁済や担保提供等を行うことで、重要な経営判断を通じて法人の状況が変わる際に行われる手続きです。分割や合併は相手次第で財務状況や経営が悪化し、債権者の債権を脅かすリスクが生じる可能性があるため、債権者保護手続きの対象となります。債権者保護手続きを行わずに分割や合併を進めた場合、後々債権者から分割・合併の差し止め請求や無効を訴えられる可能性があり、場合によっては裁判所から分割・合併自体の差し止めもしくは無効との最終判断を下されてしまうリスクがあります。
債権者保護手続きを進める際の注意点は以下の3点です。


①. 官報公告への掲載後1ヶ月以上の異議申し出期間を設けなければ、債権者保護手続きが適正に行われたとみなされないこと
②. 組織再編完了後の登記の際、債権者保護手続きがすべて完了していることを証明する書類提出が必要
③ .債権者への個別催告時は債権額の大小にかかわらず漏れが無いよう十分に確認すること

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