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本日は当社の仲介により埼玉県草加市にある「柳島クリニック」を継承開業された、吉川英志先生に寄稿いただきました連載コラム『クリニックを継承開業した経験から見えた医院継承とは?』をお届いたします。
今回は前回の《医院運営の三本柱》の保険部門②の続編をご案内いたします。
実際に継承開業された吉川先生ご自身が感じられた重要なポイントを語っていただいております。これから医院継承をご検討される先生方にとってご参考になる内容となっておりますので、是非最後までご覧ください。
皆様こんにちは。以前から夏になると思い出される凶悪犯罪や、花火大会絡みの事件事故などについて考えることがあります。今日8月13日は、私が大学2年の昨日、御巣鷹山で日航123便墜落事件があった日です。近年は都内・関東で診療を行うことが多い関係で、年老いた患者さん方と接すると、終戦前の原爆の記憶より、東京大空襲の実体験、太平洋戦争最後の熊谷空襲をお話される方が多いのに気付きます。8月6日広島、9日長崎原爆の日でしたが、時を同じくして今日、長崎、佐賀、福岡そして広島に大雨特別警報が発表されました。甚大な被害が憂慮されます。雨の感覚としてはそれほどでない都内ですが、新型コロナの猛威蔓延は、空襲での焼け野原の状況です。明後日15日の終戦記念日には果たしてどうなって、皆さん何を思っておられることでしょうか。長く苦しい戦いに終わりが見えません。
「保健」に関する注意点II
継承開業を目指す先生方には、経営面での安定がある程度保証されており、新型コロナへの心配はもとより、それさえも利用して敢えてこの時期から準備をお考えの先生方も多いと思います。いざ今回は、医院運営の三本柱、保健、労務、税務の中の「保健」部分にまつわる継承開業時の注意点で、前回からの続きです。今回で2回のシリーズが完結しますので、どうか今しばらくお付き合いください。
カルテの記載について
②カルテ記載
医院の診療業務の流れとして、1)患者さんの受付から会計まで、2)診療報酬明細作成から支払基金への請求と審査機関への対応、という大きな2つの流れで考えなくてはなりません。これら業務の流れを詳細に記載したものを準備することをお勧めします。現在多くの医院でその両者に大きくかかわるのが電子カルテです。カルテは診療時、診療後すみやかに記載しなくてはなりませんが、書き方を教えてくれるような教育は現在の医学科でなされているのでしょうか。私らが講義していた時期にすら未だありませんでしたが、自身は研修医時代に叩き込まれました。兎に角しっかり記録を残す、SOAPで記載するなどは必要最低レベルです。紙カルテの場合、汚い文字どころか全く読めない字、全部ドイツ語など、以前いずれも経験があります。継承時にカルテの不十分な記載のため苦労することは十分想像できますので、是非ご確認ください。処方内容は、レセコンから電子カルテ、電子カルテ同志へとファイルごと簡単に移行が行えると思ったら大間違いです。他項目の患者さんデータの移行は可能ですが、処方内容の移行は極限られた場合を除いて不可です。自力での入力作業が待っていることを忘れないでください。実際のカルテの記載ですが、SOAPすなわち主訴、身体所見、検査データ判定、評価、治療計画の順ですが、検査データは例えば血液検査の場合、血算、免疫、生化学(1)(2)などそれぞれのデータを記載し、判定評価されたものに関して判断料の算定へ結びつけるように、これは私が医療秘書の養成学校で講義(臨床検査学)していた時、口を酸っぱく説明していたところです。更に、皮膚科特定疾患(こちらは皮膚科のみを診ている先生が算定できます)は診療計画と診療内容の要点を、特定疾患では管理内容を患者さんごと個々の事情、生活習慣に応じて各方面への管理指導を行い、その内容をしっかり記載することで、それぞれ指導管理料や療養管理料が算定できます。忙しさにかまけて(経営上は一見嬉しい悲鳴ですが)カルテ記載を怠ると、後々大きな誤算すなわち、個別指導という波とともに、大航海(後悔)時代へと誘(いざな)われますので、くれぐれもご注意ください。電子カルテの場合、SOAP+指導と検査、処方、処置、病名記載の他は、多くの場合ボタン一つ二つで自動的に会計がなされます。電子カルテにもよるでしょうが、手動での変更を余儀なくされるものとして、以下の点が挙げられますのでご参考ください。1)再診・初診の区別、2)ベンゾジアゼピン系薬剤処方時の点数(医師会の生涯教育講座を一定単位受けているか否かで点数が変わります)、3)特定疾患該当の吸入薬の1か月処方(外用処方を一律に2週間分と判断する電子カルテがあります)、4)慢性疾患で通院中の患者さんへの風邪薬処方で特定疾患処方管理加算がされてしまう、などでしょう。現在のコンピュータレセ審査ではまず見逃されることはありません。優秀な電子カルテと事務職員、更に院長先生の力量をもって、最高のパフォーマンスを心掛けてください。電子カルテ記載は今や医院の最も重要な仕事のひとつです。
臨床検査の頻度
③ 検査頻度
臨床検査を行う頻度は医院の収益に直結します。しかし保険診療上の制限もあります。例えばHbA1cは糖尿病患者さんなら月1回測定する意義はありますが、採血嫌いな患者さんも含めてそこまで厳格に検査が必要かは症例によります。また、糖尿病疑い病名の場合、レセで許される算定頻度は3ヶ月に1度です。継承開業の場合、急な必要性に迫られた場合を除いて、こういった検査の頻度までが踏襲されます。すなわち、患者さんがそういうものだと思い込んでいて、急な変更を加えると、頻回の検査施行を拒否されることが多いです。年に1回の健診検査だけでは、健康管理はもとより、収益すら上がらない場合がありますので、継承後の収益伸長の足掛かりにするには少し困難が伴い要チェック項目です。
長期処方について
④ 長期処方
病院では一般的な60日、90日処方ですが、医院では患者さんの健康管理面はもとより、収益の面で長期処方は良いことがありません。単純に収益は半分、1/3ですし、知らない間に他の病院に入院になっている患者さんの多くはこれです。インフルエンザ繁忙期につい60日処方をしたが最後、患者さんからすれば元に戻される意味を逆に見出せません。他医では処方されたのになぜここでは駄目なのだと、初診時から絡んでくる若造もいます。令和2年度診療報酬点数第2章特掲診療料第5部投薬第5節処方箋料F400処方箋料3通知:(1)医師が処方する投薬量については、予見することができる必要期間に従ったものでなければならず、30日を超える長期の投薬を行うに当たっては、長期の投薬が可能な程度に病状が安定し、服薬管理が可能である旨を医師が確認するとともに、病状が変化した際の対応方法及び当該保険医療機関の連絡先を患者に周知する。なお、上記の要件を満たさない場合は、原則として次に掲げるいずれかの対応を行うこと。ア. 30日以内に再診を行う、イ. 許可病床が200床以上の保険医療機関にあっては・・、ウ. 患者の病状が安定しているものの服薬管理が難しい場合には、分割指示に係る処方箋を交付する。私は必要があればこれを見せて、ほぼ一切の新規長期処方は致しません(盆休みなど一過性の少しのものはありますが、すべてにコメントを付けます)。新型コロナ流行で長期処方の依頼が増えていると聞いておりますのでご注意ください。
混合診療・重複診療・勝手受診・代理受診に関する注意
⑤ 混合診療・重複診療・勝手受診・代理受診
意外と知らないうちに行われているのがこの混合診療、禁止事項ですが、当院ではご遠慮頂いております。1)健康診断と同時に、診察し薬を処方する、2)RSウィルス、ノロウィルス検査を自費で行う、3)乳幼児健診やワクチン接種に来た子供に軟膏を処方する、それぞれについて説明しますと、1)は診察部分が共通しますが、混合診療とは同一疾患に対して自費診療と保健診療が行われた場合ですので、混合診療には当たりません。2)は初診・再診料、処方すべてが自費診療ならOKです(すべて保険適応となる年齢範囲もあります)が、検査のみ自費というのは混合診療にあたります。3)も1)と同様の理由で問題ありません。時々、他医で妹は無償で検査してくれたのに、云々と言ってごねる親御さんがおられますが、きっと保険適応年齢であったのか、医院が医療費全額を補助してくれたのでしょう、と頭の中では思っています。親御さんや保育園などからの検査依頼には特に注意が必要です。
重複受診は、同じ症状で1か月に3回以上別の医療機関を受診することですが、同日に同じ症状で医院をはしごする患者さんがいます(二重診療)。その際は必ず診療情報提供書を送って頂きましょう。また入院中の患者家族が入院患者さんの普段の処方箋を取りに来る(勝手受診)、場合によってはそれが入院先の病院からの指示による(他院受診依頼)である場合があります。家族は悪いこととはつゆ知らず、しかし現代のコンピューター審査はこれらも見逃さず、査定された時初めて気付く場合がありますので、家族の来院など怪しい場合は、患者さんの入院によるものでないことを必ず確認しましょう。
これに関連して代理受診ですが、医師法第20条で無診療処方は禁止され、同法33条2項で刑事罰の対象となります。診療は原則直接本人なのですが、診療報酬上の規定として「外来管理加算」の説明の中に、投薬は本来直接本人を診察した上で適切な薬剤を投与すべきであるが、やむを得ない事情で看護に当たっている者から症状を聞いて薬剤を投与した場合においても、再診料は算定できるが、外来管理加算は算定できない、とあります。まあ例外中の例外の一解釈程度とお考え下さい。
「保健」における医院継承・開業の盲点
医院継承において、それ以前に将来不利になることがなされていない保証はありませんが、逆に継承前にここまで調べるすべはありません。継承開業とともに医療機関コードも変わりますので、是非それを機に、以後事故の無いように対処してください。以上2話にわたり、医院運営の三本柱の一つ「保健」について、医院継承・開業の盲点という論点でお伝えして参りましたが、如何でしたでしょうか。皆さまの今後に少しでも役立ちますことを祈り、一旦筆を置きます。いずれまたお会いできますことを今から楽しみにしております。時節がらどうぞご自愛ください。ごきげんよう、さようなら。
続きは、関連コラムの《医院運営の三本柱》労務・税務部門②よりご覧ください。
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