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こんにちは。医院継承(承継)、クリニック売買、医療法人M&Aのメディカルプラスです。
本日は「クリニックの売却(譲渡)価格の相場」についてお伝えいたします。長年にわたり、クリニックを経営されていれば、一度は事業継承をお考えになられた方もいるのではないでしょうか。一括りに事業継承と言っても、親子間継承、親戚知人に継承、第三者継承など、置かれている状況によって良い着地点となる選択は異なります。今回は親戚や知人、第三者にクリニックをお譲りする場合にクリニック営業権はどのように評価されるのか、評価方法と実例をご紹介しながらご説明したいと思います。
譲渡価格の算出について
ここから、譲渡価格の算出にはどういった方法があるか、またメディカルプラスではどの方法を採用しているかとその理由について、お伝えしてまいります。
譲渡価格算出方法
クリニックの譲渡価格算出方法は、「時価純資産価額法」や「類似業種比準法」、「ディスカウントキャッシュフロー法」などの方法がありますが、メディカルプラスでは「時価純資産価額法」を採用しています。「時価純資産価額法」は資産の時価評価額に営業権を加えることで、財政状況と収益力双方を考慮した譲渡価格を算出することができるからです。医療法人開設の場合、医療法人の総資産から負債を除いた純資産に営業権(のれん代)を加えた合計金額が出資持分(基金)評価額(=譲渡価格)となります。個人事業の場合、譲渡資産に営業権を加えた合計金額が譲渡価格となります。
営業権(のれん代)について
次に営業権(のれん代)についても少し触れておきたいと思います。営業権(のれん代)とは一言でいえば「超過収益力」のことを指します。のれん代は無形資産であることから、客観的な根拠によって算出することは難しいというのが現実です。算出方法は決まった方法があるわけではなく、仲介会社により算出方法は異なります。
一般的にクリニックM&Aの場合、損益計算書にある営業利益をそのままのれん代として用いることは少なく、直近1~3年間の営業利益をもとに、いくつかの調整項目を考慮のうえ実質利益を算出し、その実質利益を基準に算出されます。調整項目の実例としては、例えば大規模修繕費などの一時的な費用やクリニックの経営にあまり関わりのない接待交際費などのプライベートな費用、現在の役員・家族への報酬などが挙げられます。減価償却費も経費計上のみで実態の支出はありませんから、のれん代算出の際は差戻しされます。
当社がクリニックの営業権(のれん代)を評価する際は、実質利益の1年分を基準としています。一般企業のM&Aの場合ですと、実質利益の3~5年分を基準とする場合が多く見受けられますため、利益の倍率で見ると少ないと思われるかもしれません。しかし一般企業のM&Aでは役員報酬を類似企業と比較して過大であれば適正な報酬に減額・過少であれば適正な金額に増額するなどして修正した実質利益の3~5年分を営業権(のれん代)とするのに対し、当社が用いる実質利益には役員報酬を含みますので、売上から費用を引いた営業利益に、役員報酬全額を加えた合計額を実質利益1年分としています。例えば、法人利益500万円、役員報酬2,500万円の医療法人があったと仮定し、先に挙げた2つの評価方法を用いて営業権評価額を算出してみます。
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【一般企業Aのケース】
営業権評価:1,500~2,500万円(法人利益500万円×3~5年)
【当社(メディカルプラス)のケース】
営業権評価:3,000万円(法人利益500万円+役員報酬2,500万円)
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このように、前者一般企業Aの営業権評価方法では、営業権は1,500~2,500万円、後者当社の方法ですと営業権は3,000万円となります。ご覧になっていただいたとおり、他社が評価する利益の3~5年分と当社が評価する実質利益の1年分は、倍率だけでみると他社の方が高評価ように見えるかもしれませんが、必ずしも営業権評価額が高いとは限らないことがお分かりいただけたと思います。
実質利益1年分を営業権の基準とする2つの理由
当社が実質利益1年分を営業権(のれん代)の基準とする理由は、大きく分けて2つです。
1つ目は、当社に事業継承のご依頼をいただくクリニックのほとんどが一人医師医療法人あるいは個人事業であるため、クリニックの売上利益が院長の実力によって大きく左右される、つまり属人的な要素が大きいということが挙げられます。属人的な要素が大きいということは、院長交代後に売上が大幅減少という可能性もあり得ます。
一方で一般企業を事業継承されるケースでは経営者が変わっても、企画、製造、仕入れ、営業、アフターフォローなど仕組みが整っており、事業継承後の収支の見通しが立てやすい面があると言えます。もちろん一般企業でも経営者のカリスマ性や実力が収支に大きく影響していることもあると思いますが、クリニックの方がより属人的な要素がより大きいと言えます。
2つ目は、クリニックの引き継ぎ手の多くはこれから開業を考える個人医師のため、拠出可能資金に限界があるということがあります。
法人利益3,000万円で役員報酬7,000万円の盛業中のクリニックがあったと仮定し、先に挙げた2つの評価方法を用いて営業権評価額を算出してみます。
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【一般企業Aのケース】
営業権(のれん代)評価:2億4,000万円~4億円(修正後利益8,000万円×3~5年)
*役員報酬を相場年収2,000万円に修正
【当社(メディカルプラス)のケース】
営業権(のれん代)評価:1億円(法人利益3,000万円+役員報酬7,000万円)
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前者の場合、医療法人が管理医師(理事長および院長)を雇用した場合における役員報酬を相場年収2,000万円程度に修正します。すると法人利益3,000万円に差戻可能経費5,000万円(役員報酬7,000万円-相場年収2,000万円)が加算されるため、修正後の法人利益は8,000万となり営業権の評価額は2億4,000万円~4億円(3~5年)となります。
後者の場合、法人の利益3,000万円と役員報酬7,000万円を合計した1億円が営業権評価額となります。
引き継ぎ手となる個人医師が個人の信用力で数億円の事業資金を調達することは現実的に難しく、銀行からの融資承諾を得ることはかなり難しいと言わざる負えません。加えてこのような盛業医院は往々にして診療圏のポテンシャル以上に院長の実力で盛業しているケースが多く、継承後も今まで通りの売上が維持する難易度も高くなります。
営業権に関しこれまでお伝えしてきた内容は、あくまでクリニックの事業承継に当てはめたケースであり、病院など事業規模が大きい案件の営業権評価方法は異なります。また昨今では新型コロナによる収支への影響度合いやクリニックの立地(マッチング難易度)等も考慮して評価額を算出します。税引き後の手残りでいくら以上欲しい、あるいは患者と従業員を引き継いでくれれば営業権は相場以下でも構わないなど、事業継承が実現できる可能性範囲内であれば売主側の意向も当然ながら営業権に反映します。
成約事項ケーススタディ
ここからは実際に当社で仲介した成約事例を、いくつかご紹介したいと思います。
ぜひご参考ください。
成約事例①「首都圏」×「医療法人」×「循環器内科」
年商 | 1億6,000万 |
純資産 | 3億円 |
法人利益 | 3,000万 |
役員報酬 | 5,000万 |
実質利益 | 1億円 |
営業権 | 2億円 |
《事例解説》
クリニック周辺は人口密集エリアで、近隣に競合クリニックもいないことから、診療圏調査の推計患者数は100名以上の数値が出ており、実際1日の患者数は120名を超えており、通院患者のうち9割以上が特定疾患療養管理料を算定、慢性疾患の固定患者割合が多く、継承後も安定した見込めるクリニックでした。
売主の健康面に不安は無く、時間が掛かっても構わないので5億円以上で譲渡したいという意向もあり、純資産3億に営業権2億円(実施利益の2年分)を加え、出資持分評価を5億円として後継者を募集しました。厚労省の調査では開業医の平均所得は約3,500万となっておりますが、このクリニックは平均的な開業医の3倍近くの所得を上げており、継承後も安定した経営が見込めるため複数の候補者から商談申し込みが入り、募集開始から約半年で成約となりました。
成約事例②「首都圏」×「個人事業」×「小児科」
年商 | 8,000万円 |
利益 | 4,000万円 |
譲渡価格 | 500万円(営業権300万円・譲渡資産200万円) |
《事例解説》
特定の小児疾患に特化した診療を行っており、一般小児診療や乳児健診や予防接種はほとんど行っておらず、近隣から通院する患者よりも、他市及び他県から通院している患者の方が多いという特徴がありました。このように診療内容が特化したクリニックを事業継承する場合、現在提供中の診療内容を後継者が引き継げるか否か?という点がハードルになってきます。現状の診療内容をそのまま引き継ぐことができる後継者をマッチングすることは難しく、診療内容を大幅変更して継承すると以前同様の収益は見込めなくなるので一般的な営業権評価にすることは難しいことを売主に説明したところ、遠方から通院する患者も多く、廃院してしまうのはそうした患者に申し訳ないので譲渡価格よりも患者の引継ぎを最優先したいとのご意向でした。譲渡時期までの時間も限られていたため、譲渡価格は500万円(譲渡資産200万、営業権300万)とすることで合意し、募集開始から約2か月で成約となりました。
後任の小児科医は自身の小児専門分野は少し異なるものの、専門疾患に特化したクリニック経営の成功モデルとして、集患対策などのノウハウと売主が今まで行ってきた診療を学ぶため、譲渡契約締結後、経営権移譲までの半年間非常勤として診療に入り、経営権移譲後も売主が1年非常勤で週2回勤務する形で約1年半かけて診療内容を含め事業を引き継いでいくこととなりました。
成約事例③「首都圏」×「医療法人」×「内科」
年商 | 1億円 |
純資産 | 1億7,500万円 |
法人利益 | 0円 |
役員報酬 | 4,000万円 |
実質利益 | 5,000万円 |
営 業 権 | 7,500万円(募集時)⇒6,500万円(成約時) |
《事例解説》
都心から約30分程度、最寄り駅より徒歩15分の住宅街の一角にあるクリニックで、もともと売主は消化器内科専門ですが、専門に限らず内科全般を診療しており、以前は訪問診療も実践していました。売主は営業権をしっかりと評価してほしい希望がある一方で、体調不良から3ヶ月以内に継承したいご意向でした。売主事情により譲渡時期を急ぐ場合、マッチング難易度が高くなります。
一般的に後継者は医局や勤務先市中病院に常勤として勤務していることが多く、自身が受け持っている患者引継ぎなども考慮すると退職の半年程度前には勤務先に伝える必要があります。加えて銀行融資や継承先の患者引継ぎの期間も考慮する必要があります。これを3カ月後に経営権移譲となると、一つ目は開業準備のため既に非常勤勤務している医師(直ぐ着任可能)に絞ってマッチングをする方法、二つ目は譲渡価格を相場よりも低く設定する方法が考えられます。前者はマッチングするうえで候補者の母集団が少なくなりますので、マッチング難易度は高くなります。後者は後継者にとって価格面でメリットが生じますので、何とか現勤務先と退職時期の折り合いをつけて継承しようと考える候補者とマッチングできる可能性が高くなります。こうした経緯を説明しましたが、まずは譲渡価格を2億5,000万(純資産1億7,500万+営業権7,500万※実質利益1.5倍)に設定し募集することとなりました。募集開始後数名の候補者から商談申込が入り、最終的には2億4,000万円(純資産1億7,500万円+営業権6,500万円)で成約となりました。募集当初より営業権評価額を1,000万円減額しましたが、減額理由は売主の体調の事情もあり、直近の売上利益が減少していたため、減少分を営業権に反映する形で双方合意となりました。
当社での成約事例をいくつか挙げましたが、案件ごとに営業権(のれん代)の評価額が異なることをご理解いただけたと思います。前述の通り当社では営業権(のれん代)の評価額は実質利益の1年分を基準としておりますが、あくまでも基準であり、売主の希望、譲渡時期、収支内容、立地等により営業権(のれん代)の評価額は異なります。もちろん価格には相場というものがありますので、相場から逸脱しない範囲においては、需給バランスにより譲渡額が異なるのは市場原理と言えるでしょう。
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