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これから医院開業をお考えの方は、新規開業と医院継承それぞれを選択肢に入れて検討されている方が多いのではないでしょうか?新規開業と医院継承どちらがいいか?という問いには、それぞれにメリット・デメリットがあるため一概には言えません。これから医院開業するドクターがどのような開業をしたいか?目指したい方向性によって選択肢は変わります。例えば、開業当初の立ち上げに苦労しても一から自分が理想とするクリニックを創り上げていきたいか?あるいは立地や内装の自由度は低くとも開業当初の立ち上げリスクを回避して開業当初から利益が見込める開業が良いか?などにより取るべき選択は変わります。
医院継承には主に以下のようなメリット・デメリットがあります。
■メリット
- 患者を引き継ぐことができる
- スタッフを引き継ぐことができる
- 開業資金を抑えることができる
- 銀行融資が受けやすい
- 地域で既に認知されている
- 医師会へスムーズに入会できる
■デメリット
- 建物や医療機器など設備が老朽化している
- 内装の動線とデザインに自由度がない
- 開業場所が自由に選べない
- 前院長と比較されてしまう
新規開業と医院継承の事業収支比較
医院継承のメリット・デメリットをお伝えしてきましたが、ここからは開業後の収益性に焦点を当てて、新規開業と医院継承を比較してみたいと思います。比較方法は開業後10年間の税引後可処分所得の合計金額を比較します。事業収支シュミレーションの前提条件は以下の通りとします。
【前提条件】
■診療科目:内科
■診療単価:6,000円
■自費診療:保険診療売上の5%
■診療日数:週4.5日(月19日)
■開業形態:テナント開業
■面積:40坪
■賃料:40万円/月額
■患者数
新規開業:初年度平均15名/日~
継承開業:初年度40名/日~
※1日の最大診療人数を60名とし、開業後の患者推移は以下の通りとします。
新規開業:初年度15人、2年目20人、3年目30人、4年目40人、5年目50人、6年目以降60人
継承開業:初年度40人、2年目50人、3年目55人、4年目以降60人
■総事業費:6,000万円(新規開業と医院継承の総事業費は同額としました)
(1)新規開業6,000万円
【内訳】
テナント費用(保証金、仲介手数料、礼金)350万円
内装工事費 2,000万円
医療機器 1,500万円
什器備品購入費 300万円
広告宣伝費(HP、診察券、パンフレットなど) 200万円
医師会入会金 150万円
運転資金 1,500万円
(2)医院継承6,000万円
【内訳】
譲渡価格 4,500万円(譲渡資産1,000万、営業権3,500万)
M&A仲介手数料 320万円
広告宣伝費(HP改修) 30万円
医師会入会金 150万円
運転資金 1,000万円
■資金計画(新規開業も医院継承も同条件)
・自己資金 500万円
・銀行借入 5,500万円(金利1.0%10年返済)
上記前提条件のもと、開業後10年間の事業収支シュミレーションはそれぞれ以下の通りです。
【新規開業~10年間事業収支】
【医院継承~10年間事業収支】
上記事業収支表の下から4段目の赤い網掛け部分が、税引き後、償却前、元金利息返済後の院長の可処分所得です。開業後10年間の院長の可処分所得の合計金額はそれぞれ以下の通りです。
新規開業と医院継承10年間の可処分所得差額は約7,500万円
■開業後10年間の可処分所得合計額
新規開業=1億8,232万円
継承開業=2億5,738万円
差額=7,506万円
事業収支シュミレーションの結果、新規開業と医院継承では、開業後10年間の可処分所得合計額の差額が約7,500万円となりました。総投資額が同じかつ1日患者数の上限も同じであるにも関わらず、開業後10年間で7,500万円の差額が出るのはなぜでしょうか?
それは開業後の立上りの早さです。新規開業も医院継承も1日患者数が60名に達した後の可処分所得は変わりません。しかし新規開業では1日来院患者数が60名に達するまでに6年間を要するのに対して、既存患者を引継ぐことができる継承開業では4年で1日60名に達します。
また新規開業では開業後2年間は赤字となっており、3年目でも可処分所得は約740万円にとどまっております。この開業後の資金不足分は運転資金にて賄うことになります。一方、継承開業の場合、初年度より1,400万円の可処分所得を得ることができます。この立上りの差が10年後に7,500万円の収入差となります。また今回のシュミレーションでは新規開業と医院継承の患者上限数など前提条件を揃えておりますが、医院継承では1日来院患者数が100名を超えるような盛業医院も珍しくありません。こうした盛業医院は相応に営業権が高くなり、投資額も大きくなりますが、事業をスムーズに継承することが出来れば大きな収入を得ることが期待出来ます。一方、診療圏の寡占化が進むなか一から新規開業し、1日来院患者数が100名を超えるまでのハードルはかなり高いと言わざるおえません。冒頭にお伝えした通り、開業する際の優先順位とどのような開業を目指すか?という考えによって判断は変わります。
もちろん前院長から継承した患者が、医院継承後も永続的に通院してくれるわけではありません。転院、転居、死亡などによって少しずつ継承した既存患者は減少していきます。上記シュミレーションに使用したサンプルデータの患者数推移をグラフにすると以下のようになります。
新規開業後の患者数推移グラフ(参考)
医院継承後の患者数推移グラフ(参考)
開業に対する目的や理想とする開業は人ぞれぞれですが、収益性という観点から見た場合、医院継承のメリットが具体的な数字でお分かりいただけたと思います。開業後1日来院患者数が物理的に診療できる上限数に達した後は、新規開業も医院継承も収入は変わりません。この場合、開業後15年20年25年と年数が経過するほどに生涯年収における開業後10年間の収支差額の比率は小さくなっていきます。しかしクリニックの寡占化が進むなか、開業後の患者数の伸びしろがどこまであるか?という視点は開業を考えるうえでとても重要です。新規開業が開業後の伸びしろが不確実な要素であるのに対し、医院継承の場合は実績というエビデンスがあります。
※本コラムは2020年6月23日に加筆修正いたしました。
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※本コラムは、2020年6月23日に加筆修正いたしました。