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当社仲介により埼玉県草加市の「柳島クリニック」を継承開業されました、吉川英志先生より寄稿いただきました連載コラム『クリニックを継承開業した経験から見えた医院継承とは?』より第7弾「医院継承(譲受)にまつわる必要資金」をお届いたします。ぜひ最後までご覧ください。
医院継承(譲受)にまつわる必要資金
本コラムのシリーズ第6弾で述べました通り、新型コロナ感染患者数は見事に正規分布の波のように収束しました。その波は経済学に喩え、アダムスミスの「原始世界」と一刀両断しましたが、国家の成り立ちからも人間の「原始世界」ではすべてが自由、ゆえに自らの財産、命を守るべく「万人の万人に対する戦争」も辞さない自然状態であります。これはまずいということで、社会契約が結ばれ、皆の権利を管理してくれる絶対的な権力、ホッブズのいう旧約聖書の怪物リヴァイアサンが成立します。形態はともあれコモンウェルス、国家でもあり、共通(公共)の利益でも良いでしょう。
しかし、昆虫学を趣味にする私からは、多くの動物、そして人間にも利害関係や愛・同情といった高度な脳機能以前に、相互扶助(クロポトキン)なる「本能」が備わっているのではと考えます。
例えば、溺れそうな子供を反射的に助けようと自分だけ命を落とす人など。何を言いたいかと申しますと、苦しそうにしている患者さんが目の前に居たら(新型コロナ感染症患者であろうが無かろうが)、つい手を差し伸べてしまうのです。これは医師に限らず咄嗟にAEDを使う素人も同様です。一方で、息が苦しい、高熱の患者さんも、自身の命を守る権利として社会契約しているのに、救急車や一般病院から受け入れ拒否されます。それは一類感染症相当「新型インフルエンザ等感染症」においては禁忌、医師の勝手は許さない、人の動きも制限できる、何故なら感染拡大防止、公共の利益のため、つまりは社会契約論に行きつきます。
人間の「本能」はそれが善であっても、法制や倫理と相容れないことがあります。この矛盾と堂々巡りは、ワイドショーでの井戸端会議では決して解決できませんし、恐らくアナキズムでも解決できないのではないでしょうか。
今回は医院第三者継承にまつわる譲受(買い手)側の経済、開業資金の調達やリースに関し、医師のライフスステージを織り交ぜつつ話を進めて参ります。医院継承の際の費用として、継承価額(コラム第6弾)、仲介業者への手数料(コラム第6弾)、医師会A会員入会費用(コラム第4弾)、賃貸借(不動産)(コラム第2弾)に関わる保証金ないし敷金、継承・開業諸手続き(コラム8弾で詳述予定)に係る費用があり、場合によっては機器・設備リースが絡むことがあります。継承規模にもよりますが、ざっと数千万円からとなります。
自己資金が多ければ当然有利でしょうが、自己資金ゼロでも開業は可能で、その際は融資が必要です。
融資による資金調達の目的は個人の資金補填と異なり、事業の売り上げや利益を伸ばすという意味合い故、特に第三者継承の場合は既存事業の評価である収益性、安全性や将来性が融資可能性の判断基準となり個人資産や担保は二の次です。借り入れは銀行以外からの選択肢もあり後に言及しますが、銀行融資という言葉を用いて話を進めて参ります。
資金調達(銀行融資、銀行借り入れ) とライフステージ
まだマンションや一戸建てのローンが残っていて、子供三人が私立一貫校、加えて長男は医学部受験になるかも知れない、高級外車も購入したばかりで、毎年の海外旅行は続けたい、妻は専業主婦で保証人になれない、こういった「カネ」が必要なイベントがあるライフステージが開業適齢期であることが多く、良い開業の話や第三者継承物件に出会いがちですが、そこは大丈夫です。金融機関がお金を貸したい三大職業、公務員、会計士、医師のうちのひとつだからです。医院開業、第三者継承も含め、掛かる費用はいずれも数千万円程度からですので、自己資金が十分の先生方でも、5割から7割程度の融資を受けられるのが有利な場合があります。先の通り自己資金ゼロでの継承開業も可能ですし、住宅ローンを差し引いた債務超過での自己資金マイナスからの開業も不可能ではありません。ただ後者では、本来担保となる住宅の購入が住宅ローンとしてマイナスとして残るなど、ローン期間の見直しや借り換えでの負担減は必要かもしれません。医院継承したい時点でまずその辺のおカネのことも含め、最初から継承仲介業者にご相談されることをお勧めします。銀行が融資の際に見ているものは、特に継承開業では、①儲ける力(収益性)、すぐに現金にできるキャッシュフロー:自己資本比率や流動比率(安全性)、それに増益(成長性)など、損益計算書や貸借対照表の数字は勿論ですが、開業に無理が無いか(新規開業は特に)患者が見込めるか、競合病医院の存在、病院過密地域の敬遠など将来性と、事業計画(開業ありきで無い、資金調達のための計画、損益分岐点、少なめの患者想定と長めの返済期間)などなどで、現行ではかなり低金利での融資が可能であると見込まれます。
開業医ローン
開業医ローンと名前の付く金融商品で主なところでは、①三井住友開業医ローンドクターズパートナー、②みずほクリニックアシスト、③千葉興業銀行開業医ローンが有名です(③は高額融資が印象的)。設備資金(初期投資)は比較的長期、運転資金では7年程度まで、それぞれ1年程度の元金据え置きの返済が設定されており、融資利率や返済方法にバリエーションがあります(後述)。
最近は、無担保、保証人なしの金融商品も多く、団体信用生命保険加入でそれらが免除されますし、加入手数料も高額ではありません。また、本来のリース(後述)とは趣を異にしますが、従来リースが使えない場合への対応(①海外の最新医療機器の購入②内装・改装工事代金③中古医療機器の購入資金など)、建物リース:地主とリース会社が事業用借地契約、あるいは建設会社とリース会社が建築請負契約を締結し、リース会社との間に建物賃貸契約を結び賃貸料を支払う形式、医療ファクタリング:金融業者が国保や社保支払基金と医院の債権を買い取る契約の後、2ヶ月遅れの社保・国保収入を医院に前払い(90%程度)し、金融業者が実際の保険収入を受け取るものなど、資金運用面に便宜を図った種々の金融商品があります。
融資利率
「変動金利型」と「固定金利型」があり、変動金利型では金利は半年ごとの見直しが一般的で、市場の短期金利、実際は銀行が企業に貸し付ける際の最優遇金利である短期プライムレートに連動します。金利が安い印象ですが、現行両者間の差は無くメリットは小さいです。
両金利の差はむしろリスクの違いで、実際の金利変動は見通しが立たない故、固定金利が金利変動リスクがないぶん無難です。変動金利がずっと横ばいでこの先も低金利が続く保証は無く少々危険です。住宅ローンなどで銀行は変動金利を勧めます。安くてお得という話ですが、実態は客にリスクを背負わせるためでして、先進国では住宅ローンは金融自己責任の原則に基づき、ノンリコースローンで借りられ、ローンが払えない場合、家を出て住宅を銀行に明け渡せばローン返済の義務はなくなりますが、日本ではローン返済ができない場合、住宅を売り、更に残りのローン返済を続ける仕組みとなっています(以上はご参考までに)。
返済方法
「元利均等返済」は、毎月の約定返済額を元金と利息で調整し一定にする返済方式で、毎月の返済額が一定のため、返済計画が立て易く返済開始当初の返済額を少なくできますが、デメリットとして、次の元金均等返済よりも総返済額が多くなり、借入残高の減り方が遅くなります。
「元金均等返済」は、毎月の返済額のうち、元金部分を均等額とし、それに利息を合計して返済する方式です。返済が進むにつれて返済額は少なくなり、元金の減少が早く、元利均等返済よりも総返済額は少なくなりますが、デメリットとして、返済開始当初の返済額が割高となり、初期の返済負担が大きくなります。
繰り上げ返済
「返済額軽減型」は、返済期間は変えずに毎回の返済額を少なくする繰り上げ返済方式です。今後の子供の教育費を見据えて負担を減らしたい場合など、毎月の返済額を減らしたい場合に有利です。ただし、変動金利型ローンの場合、金利水準によっては必ずしも返済額が減少しないので注意が必要です。
「期間短縮型」は毎月の返済額は変えず、返済期間を短縮する方法です。利息の軽減効果が高く、早くローン返済の負荷から解放されるメリットがありますが、恩恵を感じるのはローン完済後となります。繰り上げ返済では短期的に手元の資金が減り、期間短縮型の場合、毎月の返済額が変わらないため、資金不足に陥り易く注意が必要です。
融資金融機関
それぞれに特徴があり、自らの借り入れ条件に有利な所を選択する必要があります。
➀政府系金融機関(日本政策金融公庫)
創業融資制度は物的担保があれば7,200万まで、最近では無担保でも4,800万までが低金利で融資可能となりました。
➁民間金融機関
先のように各種開業支援ローンや開業医ローンなる商品があり、返済期間が長いのが特徴です。
➂リース会社
審査や融資までのスピード感がありますが、金利は高めなのが原則です。機器のリースを前提にするようなリース会社もあります。
➃医師会・地方自治体
自治体が信用保証協会と連携した開業支援ローンがあります。低金利ですが融資までに時間を要します。これら制度融資は返済期間が概ね短いのが特徴です。
➄医師信用組合
無担保融資が低金利で可能ですが、地域性があり、地域医師会への入会などが条件となっていることが多いようです。
➅福祉医療機構
戸建て(土地・建物)購入を伴う多額融資となりますが、医院不足地域限定など、医院第三者継承では余り縁がないでしょう。
リース
リースは個人事業の医院第三者継承の場合、機器・設備は中古として機器自体の、ならびにリース契約も継承許可が下りないのが原則で、中古機器としての買取すら出来ないことが多いです。前医で診療に重要な機器のリース契約が残っている場合は事前に確認してください。多くの場合買い替えないし、融資金融機関での完全な借り換えが必要となり、契約変更が可能な場合でも、前経営者の連帯保証までもが必要であったり、資産を含めた審査に多大な時間を要しますので、十分な注意が必要です。医療法人の場合は、法人契約と新理事長の連帯保証で概ね問題ありません。以下は新規のリース契約を想定しているとお考えください。バリエーションは様々ですので、機器の性質、リースの利点に合わせた使い分けが必要です。
① 据え置きリース:リース料の先送り、最大数か月間の据え置きが可能で、既存の設備・機器のリース料支払いの残債務を新しい機器導入へ変更するなどの利用法があります。
② 不均等払リース:逓増型(開業直後や収入安定までのリース料の軽減)ないし逓減型(余剰資金を利用して前倒ししてリース料を支払う)などがあります。
③ 年払いリース:年度予算に合わせて、資金に余裕があり支払回数を減らすため年払いとするものです。
④ 譲渡条件付リース:リース期間終了時に無償で譲渡、自己所有が可能となりますが、対象は狭く公益法人や公共法人に限られます。
⑤ 残価付きリース:④に似ていますが、リース会社が評価価値を設定し、リース物件の購入を可能にするもので利用価値は広いでしょう。
⑥ 団信保険込リース:リース料数千万以上のものが対象となります。
⑦ 保守込リース:機器リースでは保守料を伴うことが多く、保守料を合わせたリースで、毎回の銀行振込の手間が省けます。
⑧ 端数リース:ソフト機能や付帯設備の追加が想定される場合です。
⑨ プログラム・プロダクトリース:ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)モデルの最新ソフト(ネットを通したアプリ使用)のリースに利用できます。
繰り返しになりますが、リースは思った以上にその後の融通が利かない債務となりますので、ぜひ注意して利用をご検討ください。
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