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こんにちは。メディカルプラスです。本日は「産婦人科クリニックの開業」をテーマに解説させていただきます。産婦人科開業は、女性の健康を守り、新しい命の誕生に携わる、やりがいのある仕事です。しかし、近年は出生率の低下や医療体制の変化など、さまざまな課題も存在します。そこで今回は、産婦人科開業に興味を持つ先生方に向けて、具体的な魅力や特に留意しておきたい点をまとめるとともに、「新規開業」と「継承開業」という二つの開業のかたちにも触れて解説いたします。
産婦人科開業の魅力
産婦人科は命の誕生に立ち合い、女性の一生を支える重要な役割を担います。それではあらためて、特徴や魅力、その社会的意義を見ていきましょう。
患者さんとの信頼関係
女性の生涯にわたる健康管理や、妊娠、出産、更年期など、人生の重要な節目に関わる診療を行うため、患者さんとの密接な信頼関係の構築が大切な点となるでしょう。産婦人科では、女性特有の悩みや課題に寄り添い、患者さんと共感しながら診療を進めることが重要です。例えば女性医師の場合では、自身の経験や理解に基づき、患者さんに寄り添った診療を提供することができることから、時に強い信頼関係を築くことが可能となるでしょう。患者さんの選択肢も広がっていることから、患者さんは女性医師がいる診療所を調べて通うケースが考えられます。今後、産婦人科は女性医師が成功しやすい診療科とも考えられます。
専門領域とキャリアアップ
産婦人科は、幅広い専門領域を持つ診療科です。不妊治療、周産期医療、婦人科など、様々な専門領域からご自身の専門性を出してクリニックの特徴を打ち出すことができます。また、専門医資格を取得することで、専門性を高め、キャリアアップを目指し、大学病院や研究機関と連携して、研究活動に参加することも可能です。
経営者として
当然の事ながら開業医は、経営者としてクリニックを運営します。診療内容や経営方針の裁量権があります。患者ニーズや地域医療の状況に合わせて、診療内容や経営方針を自由に決定することは開業医の大きな魅力の一つです。そこの関わるスタッフは、経営を行う上での重要な基盤となります。医師、助産師、看護師、事務職員など、様々なスタッフと協力して、クリニック運営を行うことが重要となります。また、経営者として経営に関わる知識やスキルを習得することで、より効率的な経営を目指すことができます。
年収
診療範囲や専門分野、経営手腕、立地などによって差はありますが、産婦人科医は、開業医、勤務医ともに比較的高い年収を得られる診療科です。開業医全体の年収については、中央社会保険医療協議会の「第24回医療経済実態調査 (医療機関等調査)報告」(2023年11月)によると、平均年収は4,898万円となっており、全診療科目平均年収の3,141万円と比べて高くなっております。また、少し古いデータではありますが、独立行政法人労働政策研究・研修機構の「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(2012年9月)では、産婦人科の平均年収は1,460万円程で脳神経外科に次ぐ2番目に高い数字となっております。
最近では不妊治療のニーズがあり、不妊治療は医療費が高額になることから高収入が期待できるため、開業医をめざす産婦人科医師にとっては関心があるところと言えるでしょう。
地域医療への貢献
地域住民の健康を守るために、幅広い診療を提供し、地域に根差した医療機関として、地域医療へ貢献することができます。地域医療の担い手として、積極的に地域活動に参加することができるのも産婦人科の魅力の一つと言えるでしょう。
まとめ
産婦人科の診療は、患者の人生における様々な場面に関わり、深い喜びと充実感を得ることができます。また産婦人科開業は、医師としてのキャリアアップと地域貢献の両立を図れる魅力的な仕事です。近年、女性医師の活躍が注目されています。日本産科婦人科学会の「年齢別会員医師数」をみると約6年間(2006年11月~2013年2月)で男性医師が-736名であったのに対し女性医師は1,294名の増加が報告されております。
産婦人科は、女性の健康に特化した診療科ですので、女性医師が患者に寄り添った診療を提供することは大きな強みとなりえます。
産婦人科開業に興味のある医師は、ぜひ積極的に情報収集を行い、開業に向けた準備 を進めてください。
《参考情報》
・中央社会保険医療協議会「第24回医療経済実態調査 (医療機関等調査)報告」(令和5年11月)https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/dl/24_houkoku_iryoukikan.pdf
・独立行政法人労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」
https://www.jil.go.jp/institute/research/2012/documents/0102.pdf
・データから見える産婦人科の今と未来「日本産科婦人科学会ワーク・ライフ・バランス」https://www.jsog.or.jp/wlb/database/index.html
産婦人科開業の留意点
続きまして、開業にあたり留意しておきたい点も見ていきましょう。
少子化に伴う経営環境
昨今の少子高齢化を背景に、全国のクリニック数のデータを見てみます。「医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」(令和2年実施)によると、令和2(2020)年までの10年間で、産婦人科を標榜しているクリニック数は3,284から2,826施設と減少傾向が確認できます。その中、産科を標榜しているクリニック数は335から317施設、婦人科を標榜しているクリニック数は1,892から1,839施設と、ともに微減傾向となっているのが現状です。
国の医療政策では、診療報酬の引き下げや医療費の抑制など、厳しい経営環境下にありますので、綿密な経営計画を策定し、収支をしっかりと管理する必要があります。競争力強化という点も重要となってきます。周辺医療機関との差別化を図り、独自の強みを打ち出す必要があります。
先に《産婦人科開業の魅力とメリット(1. 患者との関係性)》で解説しました様に、女性医師の場合では、ご自身の経験や理解に基づき、患者に寄り添った診療を提供することで患者と強い信頼関係を築くことが可能となります。そのため、女性医師であることが、周囲の医療機関との差別化につながるといえるでしょう。
高額な開業資金
新規開業には内装工事、医療機器の購入、広告宣伝費など、様々な費用が必要となります。その中でも患者がクリニックを選ぶ際の情報としては施設の内装や雰囲気、そこから想起される安心感です。実際の入院を考える際、できる限り快適な環境、安心した空間で過ごしたいという方は多いです。しかし、そのニーズに応えようとすると内装費用が高額になります。なかには高級ホテルのような内装にしているクリニックもありますが、こだわりすぎると開業資金が高額になるため、慎重に検討しなければなりません。設備に関しても、最新のものをすべて揃えると費用が高額になっていきます。
責任の重大性
産婦人科医は、命の誕生に立ち会えるという深い喜びと充実感を得ることができますが、患者の命と健康に関わる重大な責任も負っております。医療事故が発生した場合、多額の賠償責任を負う可能性があります。また、患者から訴訟を起こされる可能性もゼロではありません。その他、倫理的な問題が発生した場合、厳しい批判を受ける可能性があります。
長時間労働
産婦人科医は、長時間労働や過重労働が指摘されております。勤務時間は不規則で、残業や休日出勤が多く、夜間や休日のオンコール体制を敷いている場合は、睡眠不足 や疲労といった点からご自身の体調管理がとても大切になってきます。
人材確保の難しさ
医療従事者の人手不足が深刻化しており、優秀な人材を確保することが難しいです。厚労省の「診療科別医師の偏在」に触れた報告(第7回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ 令和4年9月21日)では、産科・産婦人科は「医師全体に比べ増加割合が少なく、労働時間も長時間となる傾向にあることから、地域偏在に早急に対応する必要がある」と指摘しております。また、医師の確保のみならず、助産師の人材確保や産婦人科に経験豊富な看護師を確保することも重要となります。
まとめ
産婦人科開業は、女性の健康を守り、新しい命の誕生に携わるやりがいのある仕事ですが、厳しい経営環境や開業コスト、重大な責任、長時間労働、人材確保の難しさなど、多くの課題も存在します。開業を検討する際には、十分な準備と覚悟が必要であり、成功には綿密な計画と戦略的な実行が不可欠です。
《参考情報》
・厚生労働省2010(平成22)年実施「統計表 6 医療施設従事医師・歯科医師数及び構成割合,主たる診療科、年齢階級別」https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/10/dl/toukeihyo.pdf
・厚生労働省2020(令和2)年実施「統計表 6 医療施設従事医師・歯科医師数及び構成割合,主たる診療科、年齢階級別」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/20/dl/R02_toukeihyo.pdf
・厚生労働省「第7回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ 令和4年9月21日」:https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/001198911.pdf
・日本産婦人科医会: http://www.jaog.or.jp/
産婦人科開業戦略
ここからは産婦人科の開業戦略について展開いたします。
産婦人科の開業資金
産婦人科は、産科と婦人科の両方の診察を行うのか、分娩にも対応できるかなど、どんな方針で診察を行うのかによって開業資金が大幅に変わる診療科です。最低限の開業形態を想定するため、大きく投資額が前後しないためにも次の条件で試算をしたいと思います。
結果として、新規開業資金としては、6,510~8,370万円程度と試算できます。
《条件:「分娩対応しない」、「無床」、「テナント開業」のケースと定義》
●物件賃料:
婦人科系クリニックの最低限必要な坪数は、産科や不妊治療を併設せずに一般的な婦人科診療のみとすると、待合室や診察室、専門的な処置スペースを含めると40坪前後となり、坪単価を1万円とすると、40万円と試算出来ます。
●不動産関連費用:
敷金240~400万円、礼金40万円、仲介手数料40万円と試算。なお、敷金、礼金、仲介手数料は不動産仲介会社によって金額が異なるため、事前にご確認されることを推奨いたします。
●内装工事費用:
坪単価50~60万円とすると、面積40坪の場合は2,000~2,400万円と試算出来ます。
●医療機器:
診察用ベッド、内診台、X線撮影装置、DICOM画像を見られる高精細モニターとPACS、超音波診断装置、コルポスコープ、電子カルテ等とすると、2,000万円と試算出来ます。
●什器備品:
300~500万円
●広告宣伝費(HP・看板・パンフ):
150万円
●採用費(職員雇用):
100~300万円
●開業諸費用(医師会入会金):
100~200万円
●コンサルタント費用:
0~300万円
●運転資金:
1,500~2,000万円
表にすると、以下の通りです。
テナント関連 | テナント賃料 | 40万円 |
不動産関連費用 | 320~480万円 | |
内装工事費用 | 2,000~2,400万円 | |
小 計 | 2,360~2,920万円 | |
機器・備品 | 医療機器 | 2,000万円 |
什器備品 | 300~500万円 | |
小 計 | 2,300~2,500万円 | |
その他 | 広告宣伝費 | 150万円 |
採用費(職員雇用) | 100~300万円 | |
開業諸費(医師会入会金) | 100~200万円 | |
コンサルタント費用 | 0~300万円 | |
運転資金 | 1,500~2,000万円 | |
小 計 | 1,850~2,950万円 | |
合 計 | 6,510~8,370万円 |
なお、下記を行う場合は追加で費用が必要となります。
●一般不妊治療:
専用機器などで、合計2,000万円~試算。
●生殖補助医療:
無菌室・培養室の設置や専用機器などで、合計3,000万円~試算。
産婦人科の継承開業を考える
ここまで、新規開業するケースにおいて展開しましたが、第三者医院継承という選択肢で、「継承開業」される先生もいらっしゃいます。ここからは継承開業について説明いたします。
継承開業のメリット
産婦人科は、テナント開業を選択するか、自己所有で開業するかで大きく金額に差が出てきます。まさにゼロから作るとなると土地や建物の取得費、医療機器の導入費、マーケティングに必要な費用が高額になりやすいという特徴がありますが、承継開業を利用すればこれらの費用を抑えて開業することが可能となります。
・初期費用が抑えられる
・すでに認知されておりため初期に必要となるマーケティング費用を抑制
・経験豊富な医師、助産師、看護師を確保することができる
・過去の医業収益と利益をもとにあらため収支計画を立てやすい
・求める診療内容や経営方針の変更
継承開業のデメリット
継承を考える先生において、希望に近しい条件を見つけることができれば、承継開業のメリットを多く享受できます。しかし場合によっては、継承のタイミングが売主側の都合も考慮に入れなければならない点や、ゼロからの開業のように細部まで内装へのこだわりを反映する事が出来ない点は継承開業のデメリットとなります。また、継承開業で独自の経営戦略の打ち出しを考える際には、これまでの診療を行ってきた医師やスタッフの理解と協力を働きかける必要が新たに生まれます。
・開業スケジュールのコントロールに売主側の都合を考慮する場合がある
・希望する内装やデザインを継承段階で反映することが難しい
・新たな経営戦略、診療内容の変更を医師、スタッフへ理解していただく
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いかがでしょうか。新規開業は理想の医療を追及する手段としてとても有効です。しかしながら診療科の特性上、高額な開業資金が必要となることも一方では考えなければならない現実です。「身近にある医療を守る」という意義を含めた継承開業にも多くのメリットとデメリットがありました。それらの項目が今後開業をご検討される先生の参考になりましたら幸いです。
弊社ホームページでは常に新規案件の情報を更新しておりますので、継承開業にご関心がありましたら是非ご覧になってください。
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